キッチンカーは、店舗以外のところへ自動車などで商品を運んで販売する「移動販売車」の一種です。
「ケータリングカー」「フードトラック」などとも呼ばれており、調理設備を導入した車両で出店場所まで移動し、その場で簡単な調理を行います。
コロナ禍以降、テイクアウトやデリバリーサービスの需要が高まっており、キッチンカーを開業する方も増加傾向にあります。
飲食店をより低コストで開業できるため、キッチンカーの開業を検討している方もいるのではないでしょうか。
本記事では、キッチンカーを開業するにはどうしたら良いか、必要な資格や資金調達の方法についても解説します。
キッチンカー開業のメリット
キッチンカーは、飲食店を構えるよりも低コスト・短期間で開業できるほか、自由度が高いのが人気の理由といえます。
ここからは、キッチンカーを開業するメリットについて詳しく解説しますので、参考にしてみてください。
開業資金・ランニングコストが安い
店舗を構える飲食店の平均的な開業資金は900万円ほどと言われますが、キッチンカーは300~500万円ほどで開業が可能です。
飲食店は、物件のほかに内装・外装工事や調理設備、テーブルやイスといった備品をそろえる必要があるため、多額の費用がかかります。
キッチンカーは、車を購入して調理器具を積み込みますが、スペースが限られているため、備品も少なく、飲食店よりも費用を抑えられるのがメリットです。
さらに、1人で営業をする場合は、人件費を最小限にすることができます。そのため、起業をしたいけれど出費を抑えたい場合や、小さく事業を始めたいと考えている人に向いていると言えるでしょう。
また、キッチンカーは時間の融通が利くので、他に本業がある場合でもイベント限定や週末のみ出店をするといった営業スタイルも可能です。
開業までの準備期間が短い
キッチンカーを開業するまでの流れは、以下のとおりになります。3か月から半年ほどあれば開業が可能です。
- 事業計画・資金計画を立てる
- キッチンカーを用意する
- 出店・仕込み場所の確保をする
- 営業許可を取得する
- 仕入れや宣伝をする
一方、飲食店の場合は、物件を探して契約、その後内装工事や備品の搬入・設置が必要となり、準備には半年から1年ほどかかります。
開業までスピード感を持って進められるのも、キッチンカーが人気の理由と言えるでしょう。
自由度が高い
店舗を構えず移動が自由なキッチンカーは、比較的休みの融通が利くのが特長です。
そのため、たとえば平日は本業の仕事をして、週末や祝日にキッチンカーで副業をするといった働き方も可能です。
しかし、好きな曜日を休みにすることができても、イベントや週末など多くの集客が見込める日は、休まないほうがよいでしょう。
利益が出なければ事業として成り立たないため、軌道に乗るまでは稼働時間を多く取るべきです。
他にも、営業場所を固定しないことで集客場所の変化に対応できるというメリットもあります。
流行のスポット・食べ物はその時々で変わりますが、その流れに柔軟に対応できるのがキッチンカーの強みです。
キッチンカーの開業に必要な資格
キッチンカーの開業には、「食品衛生責任者」の在籍と保健所の営業許可を取る必要があります。
食品衛生責任者
飲食物を提供する店舗を運営するには、「食品衛生責任者」の有資格者が1名以上在籍している必要があります。
食品衛生責任者の資格は、都道府県知事等が行う、または定める講習会を受講することで取得可能です。
約6時間の講習を受講すると資格を取得できますが、調理師や栄養士などの資格を持っている場合は講習が免除となります。
講習はオンラインでも受講できるため、自宅にいながら食品衛生責任者の資格を取ることも可能です。
また、調理師や栄養士などの資格は必須ではありませんが、取得していると顧客からの信頼が得られるメリットがあります。
出店地域管轄保健所の営業許可
移動販売を出店する際には、必ず出店地域を管轄している保健所での申請が必要です。
一般的には、多く営業する地域と、その周辺の大きな都市2つ程度に絞って申請します。
移動の手間と費用を考えると、営業地域を広げすぎることは、現実的ではありません。
また営業許可には、車内で簡単な調理作業が行える「食品営業自動車」と、あらかじめ調理、包装されたものを販売できる「食品移動自動車」があります。提供するメニューに応じて必要な方に申請しましょう。
2021年の法改正により、キッチンカーの設備基準が全国で統一されましたが、仕込み場所の有無等に関する見解は、地方自治体により異なるケースがあります。地域の保健所に確認するのが確実です。
一例として、キッチンカーの営業許可の基準には以下のようなものがあります。
キッチンカーの営業許可の基準(一例)
- 車内の調理スペースが完全に囲われている
- 食材・器具用と手洗い用に分けた2層のシンクの設置
- 40・80・200Lいずれかの給水タンクの搭載
- 冷蔵庫・冷凍庫の設置
- 洗浄後の手指の再汚染が防止できる手洗い設備の設置
- ふた付き容器収納の設置
- ふた付きゴミ箱の設置
- アルコール消毒の設置 等
給水タンクが200L未満のキッチンカーは、車両内での仕込みができないという点に注意しましょう。
仕込みを他の場所で行うのか、車両内で行うのかだけでも早めに決めておくのが良いでしょう。
キッチンカーを開業するまでの流れ
比較的短期間で開業できるのがキッチンカーの魅力ですが、しっかりとした事業計画を立て、入念なリサーチを行う必要があります。
事業計画や資金計画を立てる
キッチンカーを開業する際、「こだわりのメニューを売りたい」と考えるかもしれません。しかし、初期投資の回収などを踏まえ、利益率の高い商品を販売することが重要です。
地元で人気の競合店をしっかりリサーチしておくと、自店のコンセプトやメニューを決めやすくなり、周囲との差別化や独自性のあるキッチンカーを展開できます。
イベント会場やスーパーの駐車場、公園や学園祭など、コンセプトに合った場所を選定して販売するのが重要と言えるでしょう。
しかし、キッチンカーで調理できるメニューは限られるため、その範囲内で作れる料理を選択しなければなりません。
初期費用を抑えるためには、コストカットを意識しなければならず、こだわりを詰め込んだキッチンカーにするのは難しい場合があることも心に留めておく必要があります。
キッチンカーを本業として始めるなら、開業したての不安定な時期でも固定費や生活費を賄えるだけの運転資金を確保しておくのが良いでしょう。
出店場所・仕込み場所を決める
キッチンカーのような移動販売で重要なのが、出店場所です。ターゲット層が多く訪れる場所を選ぶ必要があります。
会社員のランチタイムをターゲットにするならオフィス街、家族連れをターゲットにするなら公園やイベント会場などをリサーチして選びましょう。
しかし、人気の場所は既に他のキッチンカーが利用していることがほとんどです。
他の経営者を通じて出店場所の確保へつながることがあるため、業界内でのつながりを持つことも重要といえます。
仕込みが必要なメニューを扱うのであれば、キッチンカーの他に仕込み場所を決めなければなりません。
仕込みを自宅で行うのか、物件を借りるのかの検討も必要です。
キッチンカーを用意する
移動販売を始めるには、キッチンカーを購入して改造する、またはレンタルする必要があります。
購入する際、フリマサイトやオークションは避け、必ずキッチンカーの製作業者や車の整備工場に相談することをおすすめします。
個人間のやりとりはトラブルの可能性が高いことに加え、車に不備があると修理代がかさんでしまい、新車を買ったほうが安く済むようなケースもあります。
給排水のタンクが200L未満のキッチンカーは、車両内での仕込みは禁止です。メニューを決める際、仕込みについても考慮しておきましょう。
また、外装や設備にこだわりすぎると500万円以上かかってしまうこともあり、初期費用が安く済むというキッチンカーのメリットを生かせなくなります。
営業許可を取得する
キッチンカーであっても飲食物の提供をする場合は、「食品衛生責任者」の設置と保健所の営業許可が必要です。開業までに手続きをしておきましょう。
地域によっては、事業概要やキッチンカー内装設備の配置図など、細かい設備基準が定められている場合もあります。
賠償保険や自動車保険に加入する
万が一、食中毒が発生した時の賠償保険として「PL保険」、車両移動時の事故に備えて自動車保険に加入しておきましょう。
【準備しておきたい保険と補償内容の一例】
PL保険 | ・客が食中毒になった ・看板の取り付けが甘く、客が怪我をした |
自動車保険 | ・移動中に歩行者に接触して怪我をさせた ・移動中に物損事故を起こした |
特に、損害賠償事故は起こしてしまうと大変なので、必ず備えておいてください。
キッチンカーの購入方法
キッチンカーの購入は、事業規模や自己資金の有無によっていくつかの選択肢があります。
新車で購入する
キッチンカーを新車で購入するメリットは、自分の資産になる点や、レンタル料金の支払いがない点が挙げられます。
毎日稼働する場合は、レンタルよりも新車の購入が年間費用を抑える結果となることがあります。
キッチンカーとして利用する車両は、軽自動車から1~1.5トントラックなど大型なものまで幅があるため、用途に応じて検討してみましょう。
また、たこ焼きの場合はたこ焼き用鉄板、クレープならクレープ焼き機というように、専用の設備が必要になります。
提供するメニューや車両へのこだわりを予算と照らし合わせて検討するのが良いでしょう。
中古で購入する
中古のキッチンカーを購入するメリットは、そのまま利用できる設備がある、または一部を変更するだけで営業可能であり、なおかつ費用も抑えられる点です。
しかし、使ってから出てくる不備による修理費用が、新車の価格を上回ってしまうケースも考えられます。
そのため、中古車を選ぶ場合は、走行距離や必要な設備をしっかりチェックしましょう。
レンタルを利用する
通常、自動車の購入には自動車ローンが使用できますが、キッチンカーの場合は事業となるため、ローンを組めないケースがほとんどです。借り入れが必要な場合は、銀行から融資を受けなければなりません。
レンタルがおすすめなのは、期間を決めて季節限定で営業するケースです。
レンタルで一定期間を過ぎると買い上げが可能な場合もあります。売り上げが安定してきたら購入するというのも一つの方法と言えます。
レンタルの場合は、出店地域の営業許可が降りる条件を満たす作業設備を搭載してしているか、必ず確認しておきましょう。地域によって許可の条件が異なるため注意しましょう。
自分でDIYをする
購入した軽自動車やバンタイプの車を、DIYによってキッチンカーに改造する方法もあります。
DIYをする際には、掃除のしやすさや動きやすさなど、実際の使い勝手を考慮する必要があります。
設備の営業許可が降りるかどうか、必ず保健所に確認しておきましょう。
しかし、自家用車をDIYするのとは勝手が違い、規定はかなり細かいものとなるため、DIY初心者にはおすすめできません。
リスク・難易度共に高いので、専門業者に頼むのが無難と言えるでしょう。
キッチンカーの開業資金を調達する方法
キッチンカーの開業資金は、300~500万円ほどと言われています。自己資金を使う方法とあわせて別の方法もご紹介します。
自己資金で開業する
キッチンカーは、比較的低コストでの開業が可能なため、自己資金のみで開業する人も多くいます。
その場合は、銀行から融資を受ける必要がなく、毎月の返済に追われずに済むのがメリットです。
複雑な手続きがいらない、必要な時にすぐ資金を準備できるのも利点と言えるでしょう。
銀行や信用金庫から融資を受ける
自己資金で開業資金を賄いきれない場合は、銀行や信用金庫などの金融機関や日本政策金融公庫から資金を借り入れて開業をする方法があります。
ただし、複雑な手続きを行わなければならないことや、審査を通過する必要があり、毎月の返済が発生するデメリットも考慮しておかなければなりません。
審査を受ける際には事業計画書の提出が求められ、計画が甘いと審査に通らないこともあるので注意しましょう。
助成金・補助金を活用する
自治体によっては、地域経済の活性化のため、事業者に対して助成金や補助金を出してくれることがあります。
ただし、住んでいる地域で助成金や補助金制度がなければ当然活用はできず、複雑な手続きが発生するので注意が必要です。
クラウドファンディングを利用する
クラウドファンディングを利用して、広く開業資金を募る方法もあります。
SNSなどを利用してプロジェクトを広め、多くの支援者を集めることができれば、目標金額以上に資金が集まる可能性があるでしょう。
とくに、こだわりを感じられるプロジェクトは、支持されやすく、キッチンカーの外装やメニューにこだわりたい人にとって適していると言えます。
ただし、資金の用途が不明確だと支持を得られにくいため、運転資金や宣伝活動などの用途を明確に示しておくのがおすすめです。
キッチンカー開業の注意点
キッチンカーは、自由に移動できるメリットがある反面、屋外での営業が中心となるため、天候や出店場所によって影響を受けやすいなどの注意点があります。
天候に影響を受けやすい
キッチンカーは、天候に影響されやすく、出店場所によっては雨や雪の日に客足が落ちてしまう傾向があります。
多くの集客が見込まれる週末やイベント時に悪天候が続くと、売り上げを得られずに経営が悪化してしまうケースも考えられるでしょう。
配達プラットフォームなどを利用して、天候に左右されないシステムを構築できれば、悪天候が続いてもある程度の売り上げが見込めるかもしれません。
ただし、デリバリーコストや手数料がかかるため、予算と照らし合わせて利用の有無を検討しましょう。
出店場所の選定が難しい
キッチンカーであっても、集客のための施策は当然必要となります。
はじめのうちは難しく、売り上げよりも経費が上回ってしまう可能性も考えられるため、運転資金は余裕を持ちたいところです。
開業前からリサーチを重ね、開業後も常にトレンドや地元の人気スポットなどの情報をキャッチしておく必要があります。
一方でキッチンカーは、SNSとの相性が良く、おいしそうな料理をキッチンカーとともに「今日は●●で出店します」と告知をすれば、大きな集客につながるかもしれません。
また、一度来てくれたお客さんにSNSアカウントをフォローしてもらえば、投稿を見て再び来店してくれることもあるでしょう。
価格設定を間違えると利益が出ない
「なるべく安くしたい」「他店はこれくらいだから」などの理由で、必要以上に販売価格を下げてしまうと赤字になります。利益が出る価格設定が重要です。
キッチンカーは、価格変更しやすいのがメリットのため、様子を見ながら少しずつ価格調整していくのがおすすめです。
また、メニュー数が少なすぎたり多すぎたりすると購入しづらくなるため、離脱につながります。
メニューは3パターン程度にしておき、キリのよい価格にしておくと購入しやすくなるでしょう。
まとめ:キッチンカーの開業は1人でも可能
キッチンカーは、店舗を構える飲食店に比べ、比較的低コストで開業できるのがメリットといえます。
また、休日や営業時間、出店場所も自由に決められるので、副業としても人気の事業です。
飲食店を開業したいと考えている方は、キッチンカーから始めてみるのも良いのではないでしょうか。
執筆者名佐藤 玲子
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム