独立・開業したいと考える会社員の方は少なくないでしょう。独立・開業は収入アップや自由に働ける点がメリットですが、無計画で進めると理想とは異なる結果になる可能性もあるので注意が必要です。
この記事では、独立・開業を成功させるポイントや注意点を解説します。将来自分らしい働き方を実現したい方の参考となれば幸いです。
独立・開業の種類
独立・開業にはさまざまな形態がありますが、主な種類は以下のとおりです。
- 個人事業主
- 法人
- フランチャイズ
それぞれの特徴を把握し、自分に合ったスタイルを選択しましょう。
個人事業主
個人事業主は、法人を設立せずに個人名義で事業を営む形態で、収入はすべて自分の所得になるのが特徴です。なお、個人事業主として活動するには、税務署に開業届を提出する必要があります。
開業届を出さずに事業活動することも可能ですが、その場合は青色申告制度が利用できません。青色申告制度とは、課税所得から最大65万円控除される制度で、所得税の減額が可能です。
個人事業主は少ないコストで始められる一方、収入の管理や税務申告が重要なポイントとなります。
法人
独立・開業には、会社を設立する方法もあります。法人を設立するには主に以下のことが必要になるため、個人事業主と比べて手続きが煩雑になる点が特徴です。
- 会社名の決定
- 役員の決定
- 資本金の決定
- 登記手続き
一方、法人化にはメリットも数多くあります。たとえば、独立・開業当初の利益によっては、法人化をすることで税金が抑えられるケースがあります。また、法人化により取引先の信用度が増し、資金調達や業務拡大がしやすくなることも利点です。
法人化による独立・開業は手続きが多いですが、税制面の優遇やビジネスの信頼性向上など、安定した事業基盤を築くための選択肢として考えられます。
フランチャイズ
フランチャイズは、既存のブランドやビジネスモデルを活用して事業を展開する形態です。コンビニエンスストアやファミリーレストランなど、多くの業種でフランチャイズ制が取り入れられており、初めての独立・開業でも始めやすい点が特徴です。
フランチャイズは、すでに確立されたブランド力とビジネスモデルを活用できるため、独立・開業当初から売上予測を立てやすいメリットがあります。この点は個人事業主や法人設立との大きな違いです。
一方で、フランチャイズは本部へロイヤリティを支払う必要があります。また、ブランドのイメージや規定に従う義務が生じるため、経営の自由度が低い点に注意しなければなりません。
なお、フランチャイズに加盟する場合は、個人事業主か法人設立の選択が可能です。それぞれの利点を把握し、自身に適した選択が大切になります。
独立・開業する流れ
ここでは独立・開業する場合の流れを個人事業主と法人に分けてそれぞれ解説します。
個人事業主の場合
個人事業主が独立・開業する流れは、以下のとおりです。
- 事業計画を立てる
- 資金や備品を準備する
- 開業届を提出する
スムーズな独立・開業を進められるように、詳しく説明します。
事業計画を立てる
個人事業主として独立・開業を目指す際は、事業のビジョンを明確にして具体的な計画を立てることが重要です。
どのような商品やサービスを誰に対して提供するのか、市場のニーズやトレンドを調査したうえで目標を設定しましょう。また、初期投資や運転資金といった財務計画を立てることも大切です。
事業計画は、独立・開業後も見直しや修正を行うことで、事業の成長を支える強力なツールになります。
資金や備品を準備する
事業計画を立てたら、独立・開業に必要な資金や備品の調達に進みます。
開業資金は業種や事業規模によって異なるため、事前の見積りが大切です。自己資金だけで足りない場合は、銀行融資や助成金などの利用も検討しましょう。
なお、備品は必要最低限のものに留めると、初期投資額を抑えられます。資金面のリスクを減らしながら準備を進めると、安定したスタートが切れるでしょう。
開業届を提出する
独立・開業の準備が整ったら、開業届を提出します。開業届は、事業を開始してから1か月以内に税務署への提出が必要です。
なお、開業届と同時に青色申告承認申請書を提出すると、最大で65万円が課税所得から控除される青色申告制度を利用できます。
開業届を提出すると正式に個人事業主として認められるため、気持ちの面でも自覚が芽生え、新たなスタートを実感できるでしょう。
法人の場合
法人設立により独立・開業を目指す場合は、以下の流れで進めましょう。
- 会社の基本的な情報を決める
- 実印を作る
- 定款を作る
- 資本金を払う
- 法務局で登記申請する
法人は個人事業主よりも手続きが多いため、流れを確認しながら進めることが大切です。
会社の基本的な情報を決める
法人を設立する場合は、まず会社の概要を決めましょう。主な決定事項は以下のとおりです。
- 会社名・会社形態
- 所在地
- 設立日
- 資本金
- 事業目的
- 会計年度
- 役員や株主の構成
これらの情報は定款の作成時にも必要になるため、忘れずに決めてください。
実印を作る
基本情報を決定したら、法人用の実印を作成しましょう。法務局へ法人設立を申請する際は、実印の登録が必要です。
なお、オンライン申請で法人を設立する場合は、実印登録は任意です。しかし、実務で使用する場面はまだまだ多いため、法人設立時に作っておくのがよいでしょう。
定款を作る
続いて、法人の規則をまとめた定款を作成します。
定款にはさまざまな項目がありますが、以下の「絶対的記載事項」は、必ず記載が必要です。
- 事業の目的
- 本社の所在地
- 商号
- 資本金額
- 発起人の氏名・住所
なお、定款は紙面か電子ファイルで提出可能です。
資本金を払う
定款が認証されたら資本金を払い込みます。この時点で会社用の口座は作成していないため、通常は発起人の個人口座へ払い込みます。
資本金の金額に下限はありませんが、運転資金の3か月分程度を用意しておくと、事務所の契約や備品の準備に活用できます。また、払い込みをした証明として以下のコピーが必要です。
- 通帳の表紙
- 表紙の裏
- 振り込み内容が記載されたページ
資本金を払い込んだ際は、コピーを忘れないようにしましょう。
法務局で登記申請する
最後に法務局で登記申請を完了すると手続きは終了です。登記申請で必要になる主な書類は、以下のとおりです。
- 登記申請書
- 収入印紙を貼り付けた台紙(登録免許税分)
- 発起人の同意書
- 定款
- 設立時代表取締役の就任承諾書
- 監査役の就任承諾書
- 発起人の印鑑証明書
- 資本金の支払いを証明するもの
- 印鑑届出書
- 登記事項を記載した書面か保存したCD-R
通常は10日前後で手続きが完了します。
独立・開業後に気をつけるべきこと
独立・開業した後も、気をつけるべきことは多くあります。ここでは個人事業主と法人の場合をそれぞれ説明します。
個人事業主の場合
個人事業主が独立・開業後に気をつけるべきことは、以下のとおりです。
- 毎年確定申告が必要になる
- 健康保険や年金の手続きが必要になる
独立・開業で必要になる事務手続きを忘れないようにしましょう。
毎年確定申告が必要になる
独立・開業すると、毎年の確定申告が必要になります。
確定申告は、個人事業主がその年の所得税額を確定させる作業です。会社員は年末調整があるため、基本的に確定申告は不要ですが、独立・開業後は自分で申告する必要があります。
なお、開業届を提出していない会社員の副業所得が年間20万円を超える場合は、確定申告が求められます。
健康保険や年金の手続きが必要になる
会社員を辞めて独立・開業すると、健康保険や年金の移行手続きが必要になります。社会保険は国民健康保険へ、厚生年金は国民年金に変更するのが一般的です。
なお、国民健康保険や国民年金には扶養制度がないため、家族全員分の保険や年金に加入し、それぞれ保険料を支払う必要があります。
法人の場合
法人として独立・開業した後に気をつけるべきことは、以下のとおりです。
- 提出書類を忘れないようにする
- 法人用の銀行口座やクレジットカードを作成しておく
法人は個人事業主に比べて手続きが多いため、一つひとつ確実にこなしていきましょう。
提出書類を忘れないようにする
法人は設立後もさまざまな書類の提出が求められます。以下の書類は必ず提出しなければならないので、早めの対応が必要です。
- 法人設立届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
- 法人設立・設置届出書
- 健康保険・厚生年金保険 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届
これらの書類は独立・開業前から頭に入れておくとよいでしょう。
法人用の銀行口座やクレジットカードを作成しておく
独立・開業後は、法人用の銀行口座やクレジットカードの作成が重要です。法人と個人の資金を分けて管理すると事業の収支が明確になり、経理業務がスムーズに行えます。
また、法人専用の口座やクレジットカードを利用することで、取引先からの信用を得やすくなるため、事業の信頼性が向上するでしょう。
独立・開業を成功させる4つのポイント
独立・開業を成功させるには、いくつかの重要なポイントがあります。
- 副業からスタートさせる
- 当面の運転資金を準備する
- 数か月分の生活防衛資金を用意する
- 人とのつながりを意識する
これらのポイントを意識することで、独立・開業をスムーズに進められるでしょう。
1.副業からスタートさせる
独立・開業を目指す際、いきなり本業として始めるのではなく、副業で小さくスタートするとリスクの軽減に効果的です。
副業として事業を始めると、業務の流れや顧客とのやり取りを体験しながら、必要なスキルやノウハウを身につけられます。さらに、生活資金への影響を最小限に抑えられるため、心に余裕を持ってビジネスを進められるでしょう。
副業を通じて少しずつ事業の流れをつかみ、信頼を築き上げてから独立に踏み切ることは、成功への大きな一歩です。
2.当面の運転資金を準備する
独立・開業を成功させるためには、数か月分の運転資金を事前に準備しておくことが大切です。
独立・開業後は、すぐに安定した収入を得られるとは限らず、売上が不安定になるケースも少なくありません。運転資金を確保しておくと、ビジネスの安定を待ちながら焦らず事業を軌道に乗せられるでしょう。
3.数か月分の生活資金を用意する
独立・開業前に数か月分の生活資金を用意しておくと、安定した生活の維持が可能です。
開業当初は収入が不安定なことが多く、日々の生活費が不足するケースも少なくありません。あらかじめ生活資金を確保しておくと、収入の変動が大きい時期でも生活への影響を抑えられます。
生活資金があると、事業が軌道に乗るまでの期間をしっかりと支えられるでしょう。
4.人とのつながりを意識する
独立・開業前からさまざまな人とのつながりを持つことは、ビジネスの安定に欠かせません。
安定した仕事の受注には、人脈が重要です。信頼関係を築いた人からの紹介が、事業の成長に大きな役割を果たすこともあります。
また、同業者とのつながりを通じて、スキルアップや業界の最新情報を得られる機会も増えるでしょう。現在ではSNSやオンラインコミュニティを活用した交流も盛んに行われており、これらの場に積極的に参加する姿勢が求められます。
会社員が独立・開業するメリット4選
会社員から独立・開業することで得られるメリットは、主に以下のとおりです。
- 働き方が自由になる
- 高収入を目指せる
- スキルアップできる機会が多い
- 希望する年齢まで働ける
これらのメリットを活かすことで、より充実した働き方が実現できるでしょう。
1.働き方が自由になる
独立・開業で、自分らしい働き方が実現できるのは大きなメリットです。
会社員の場合、出退勤時間が定められているのが一般的で、予定外の残業でスケジュールが乱れてしまうことも少なくありません。また、毎日の通勤が負担と感じる方も多いでしょう。
一方、独立・開業すると、自分のスケジュールに合わせて柔軟に働けます。店舗を必要としない業種であれば、自宅やカフェなどでリラックスしながら仕事を進めることも可能です。
2.高収入を目指せる
独立・開業すると、会社員時代よりも収入が大幅に上がるケースがあります。
多くの会社員は固定給で、昇給も年に1回が一般的です。また、業績や役職によって収入が頭打ちになることも少なくありません。
一方、独立・開業すると収入に上限がなくなります。自分の努力や工夫次第で売上や利益を伸ばせるため、頑張りに応じた報酬を得られるでしょう。
3.スキルアップできる機会が多い
独立・開業すると、スキルアップの機会を豊富に得られる点が大きな魅力です。
独立・開業後は経営や営業、事務処理など多くの業務を自分でこなす必要があり、その過程で自然と新しいスキルが身につきます。
一方、会社員の場合は与えられた業務に専念することが多く、自発的に学ぶ姿勢がないとスキルアップの機会は限られてしまいがちです。
独立・開業するとスキルを磨く環境が整っているため、自分の成長を実感しながらビジネスを展開できます。
4.希望する年齢まで働ける
独立・開業の大きなメリットは、定年がなく自分の希望する年齢まで働けることです。
多くの企業には定年制度があり、一般的には60歳や65歳に設定されています。その後再雇用されるケースもありますが、給与が抑えられることも少なくありません。
しかし、独立・開業すると、年齢に関係なく自分のペースで働き続けることができます。現役時代と同じ収入を維持できるため、老後の生活に安心感をもたらすでしょう。
会社員が独立・開業する注意点3選
会社員から独立・開業する際は、いくつかの注意点があります。
- 収入が安定しないケースがある
- 徹底した自己管理が求められる
- 会社員と比べて社会的信用が変わる
これらの注意点を理解し、適切な対策を講じましょう。
1.収入が安定しないケースがある
独立・開業当初は、収入が不安定になるケースが少なくありません。
会社員のメリットとして、毎月一定の収入が得られる安定感があります。独立・開業すると、収入が上がる可能性がある反面、事業が軌道に乗るまでは不安定になりがちです。
とくに独立・開業直後は経営基盤が整っていないため、顧客や売上の確保が難しく、収入が変動する可能性が高まります。
独立・開業を目指すならば、初期の収入をどう確保するか考えておくことが大切です。
2.徹底した自己管理が求められる
独立・開業すると、すべての業務を自分で進めなければならないため、徹底した自己管理が求められます。
会社員であればチームで業務を分担したり、上司の指示を受けたりしてサポートを得られますが、独立・開業後は自分ひとりで計画を立て、業務をこなす必要があります。
独立・開業は自由な働き方ができる反面、スケジュール管理を怠ると、業務が滞るリスクが生じます。さらに、病気やケガなどで仕事に支障が出ることもあるため、体調管理も重要です。
3.会社員と比べて社会的信用が変わる
独立・開業すると、会社員に比べて社会的信用を得にくいケースが多々あります。
会社員の場合、企業のブランドや実績などで取引先や顧客から信用を得やすいです。しかし、独立・開業したばかりの個人事業主や法人には実績がないため、新規の顧客や取引先から信用を得るまでに時間がかかります。
独立・開業後はコツコツ実績を積み上げ、信頼を高めていくことが重要です。
独立・開業しやすい仕事
独立・開業を目指す際に、始めやすい仕事の種類は以下のとおりです。
- 初期費用が少ない仕事
- 自分のスキルを活かした仕事
これらの仕事は少ない資金で始められたり、自分の得意分野を活かせたりするため、独立・開業の際に魅力的な選択肢となるでしょう。
1.初期費用が少ない仕事
独立・開業しやすい仕事のひとつに、初期費用があまりかからない業種があります。
事業を始める際は、初期投資やリスクを抑えることが成功への近道です。店舗を構えたり設備を整えたりする必要があるビジネスは、初期費用が大きくなりがちです。一方、パソコンとインターネット環境があれば始められる仕事であれば、低コストで独立・開業可能です。
たとえば、プログラミングやライティング、デザインなどは、自宅でパソコンを使ってできるため、店舗や設備が必要ありません。初期投資を抑えつつ収益を見込めるため、独立・開業しやすい仕事といえるでしょう。
2.自分のスキルを活かした仕事
これまでに得たスキルを活かした仕事であれば、独立・開業後も安定して仕事を得やすくなります。
自分の得意分野は他人と差別化が図れるだけでなく、情熱を持って取り組みやすいでしょう。さらに、これまでの実績をアピールすると顧客やクライアントからの信頼も得やすくなり、仕事獲得の面でも有利に働きます。
自分のスキルを活かした仕事は、独立・開業初期からスムーズにスタートしやすいので、成功しやすいビジネス形態といえます。
独立・開業に関するQ&A
ここでは独立・開業に関するQ&Aを紹介します。
開業と起業とは何が違うの?
「開業」も「起業」も事業を始めることに変わりはありませんが、「起業」は個人か法人かの形態にかかわらず、今までにないような何か新しい事業を始めるときに使われる場合が多いです。
開業資金はどのように準備すればよいでしょう?
自己資金があればベストですが、事業計画をしっかり作成すれば、融資や資金調達も可能です。
まとめ:独立・開業は大きな可能性を秘めている
形態によって独立・開業を目指す流れが異なるので、しっかり確認してから進めることが大切です。また、独立・開業後は税の申告や健康保険などの手続きが必要になります。
独立・開業を成功させるために押さえるべきポイントをあらかじめ確認しておきましょう。
独立・開業して事業が軌道に乗ると、収入の大幅アップや自由な勤務体系など、さまざまなメリットを得られます。しかし一方で、独立・開業初期は収入が安定しないことや、会社員時代と異なり自己管理能力を求められることには注意が必要です。
独立・開業して自由に働きたいと考えている方は多いですが、成功には事前の計画が欠かせません。綿密なプランを立て、長期間にわたり事業を継続できる環境を整えましょう。
執筆者名小川桂徳
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム