実際にイラストレーターになるには、どのような勉強方法や能力が求められるのでしょうか?本記事ではイラストレーターが活躍できる業界、イラストレーターになるための勉強方法、イラストレーターになるために大切なことを解説します。
さまざまなイラストを描くことで、クライアントの商品・サービスの売上やイラストのファンの満足度向上につなげるイラストレーター。インターネットやSNSの発達によって、活躍の場が広がるイラストレーターについて紹介していきます。
イラストレーターとは?仕事内容や活躍できる業界
イラストレーターとは、文字通り「イラストを描くこと」で収入を得る職業です。イラストレーターとは「何を描くのか」「どこに売るのか」などによって、仕事内容や収益構造が大きく変わります。
以下ではイラストレーターの仕事内容や、活躍できる業界などを解説します。
イラストレーターの8~9割はフリーランス
現在イラストレーターとして活動しているほとんどの人が、フリーランスと言われています。たとえば厚生労働省「職業情報提供サイトjobTag」によると、約8割強が「自営、フリーランス」となっています。
一般的な就業形態 | 割合 |
自営、フリーランス | 88.7% |
正規の職員、従業員 | 7.5% |
契約社員、期間従業員 | 7.5% |
パートタイマー | 3.8% |
アルバイト(学生以外) | 3.8% |
アルバイト | 1.9% |
その他 | 1.9% |
参考:厚生労働省「job tag職業情報提供サイト(日本版O-NET)」
フリーランスのなかでもグループに分かれており、完全に独立した個人事業主・法人から、副業・兼業イラストレーターまでさまざまです。
イラストレーターの主な仕事は「依頼を受けた商業用イラストの制作・納品」
イラストレーターの一般的な仕事として挙げられるのは、クライアントから依頼を受けて、商業用のイラストを制作・納品することです。クライアントとなるのは、出版、広告、ゲーム、製造業界の法人や、ECサイト、ブログ、動画などで収益を得る個人などです。
納品するイラストの例は次のとおりです。
- 家庭用ゲーム、スマホアプリ、カードゲームのキャラクターイラストや背景イラスト
- LINEスタンプのイラスト
- パンフレット、ポスター、チラシに使用するイラスト
- 文庫本、雑誌、書籍、新聞といった出版物に載せる挿絵・図解
- 商品パッケージのデザイン
- 企業のコーポレートサイト、個人のブログ、などに載せるイラスト
- Live2Dや3Dモデラー用のイラスト
- CADなどを使用した製造、建築、機械関係の専門的なイラスト
イラストレーターとして働くうえで注意したいのは、自分が好きな絵を、好きなように描いて納品する仕事ではないという点です。
クライアントへ納品するのは、原則として、「クライアントの要望に沿ったイラスト」です。ヒアリングやラフ(デザインのサンプル)を通じてクライアントとすり合わせながら、掲載予定の媒体のコンセプト、雰囲気、ターゲットなどに合うイラストに仕上げます。
近年ではインターネットやSNSの発達に伴い、「あらかじめ制作してストックした絵を顧客へ提供して収益を得る」というビジネスモデルも登場しました。
具体的には次のとおりです。
- 入会者のみが閲覧・ダウンロードができるサブスクリプションサービスの開設
- 制作イラストのダウンロード数に応じた収益を得られる、Adobe StockやイラストACなどのストックイラストサービスの提供
- 専門の販売サイトやそのほかのECサイトなどで、「イラスト1枚◯円」という形での直接販売
上記に挙げたほかにも、イラストレーターとして収入を得るさまざまな方法が存在します。イラストレーターとしてキャリアを積めば、チームリーダーとしてほかのイラストレーターのイラスト監修・ディレクションをおこなう「アートディレクター」の仕事を任されることがあります。
自社のイラストを制作するインハウスデザイナーという働き方
フリーランスのイラストレーター以外にも、正社員・契約社員といった雇用形態で働くインハウスデザイナー(社内イラストレーター)が存在します。
インハウスデザイナーとしての就職先には次のような例があります。
- デザイン系の事務所
- 広告代理店、広告制作会社などの広告系の会社
- ゲーム・アプリ会社
- アニメーション制作会社
- Web系のコンテンツ制作会社
- 製造、建築、機械系の設計・デザインをおこなう会社
インハウスデザイナーの仕事は、主に「自社ブランドのイメージや商品パッケージ用のイラスト制作」や、「社内資料用のイラスト制作」などです。
ただしインハウスデザイナーは会社組織の一員として働くため、イラスト制作以外の仕事にも携わるのが一般的です。外部クリエイターへの発注・連絡、予算管理、イベント企画、マーケティング、そのほか雑務なども担当します。
フリーランスと比較すると、自社企画の立ち上げからイラスト・デザインの効果測定と改善まで1つのプロジェクト全体にかかわることが多いのがインハウスデザイナーの特徴です。
未経験からイラストレーターになるには?
イラストレーターになるだけなら、今日から「自分はイラストレーターだ」と名乗り、実際に仕事を請ければオーケーです。イラストレーターになるための資格・職歴などは必要ありません。
しかし専門職であるイラストレーターの仕事を、未経験の人に任せる法人・個人はほぼいないでしょう。実際にイラストレーターとして仕事受注や就職をするためには、イラストレーターとしての知識・スキル・実績が求められます。
未経験からイラストレーターになるための勉強方法として、「独学」「学校」「通信講座」の3つが挙げられるでしょう。いずれにもメリット・デメリットがあるため、自分に合う方法を選択してください。
独学ははじめやすいが難易度が高い
独学で1からイラストの勉強を続け、プロのイラストレーターになった人もいます。
現代ではメイキング、YouTube動画、SNSの発信、Web記事、書籍などを通じて、プロの体験談・技術をどこでも見られる時代になりました。そのため、以前よりも独学でイラストを学びやすい環境にあります。
独学のメリットは、自分のやる気、時間、生活リズムに合わせて学習できる点です。機材・ツールなどを揃えれば、スクール系や通信講座にかかる費用も必要ありません。
しかし、未経験から独学でプロのイラストレーターになるハードルは、依然高いのが現実です。
独学が難しい理由は次の通りです。
- モチベーションを自分でコントロールしないと学習が進まない
- 未経験なのに勉強方針や時間配分などすべて自分の判断で決めなければならない
- 学習に必要な教材や道具を自分で調べて揃える必要がある
- 間違った学習や制作イラストの修正・フィードバックを受ける機会が非常に少ない
- 将来的に仕事を受けるためのコネクションを別に作る必要がある
独学からプロとなった人でも、「イラストが好きで、膨大な時間をイラスト制作に費やした」「売れるための施策や検証を繰り返した」というケースは多いです。イラスト1本で収入を得るには、非常に多くの時間と労力がかかることを知っておきましょう。
独学でイラストレーターを目指すときは、事前に学習方法をしっかりとリサーチしつつ、自分のイラストの評価や添削を客観的にしてもらえる環境を整えることが大切です。
イラスト掲載サイト、ブログ、SNSなどで自分のイラストを公開して感想をもらう、クラウドソーシングサイトでイラストの添削を依頼する、実際にプロの人に会って話をするなどが考えられます。
現実的なのは専門学校・大学でイラストを学ぶこと
未経験からイラストレーターになるための方法として現実的なのは、美術系の専門学校や大学に通ってイラストを学ぶことです。イラストレーションの専門学校や、大学の芸術系学部、美術学部、デザイン学科などが挙げられます。
現在はフリーランスとして活躍しているプロのイラストレーターも、専門学校・大学で学習したあと就職、そして独立という王道ルートが多く見られます。
専門学校や大学で学ぶメリットは次のとおりです。
- スクール講師の授業や添削を受けられる
- 洗礼されたカリキュラムで基礎知識・スキルを一からみっちり学べる
- イラストレーターに必要な機材を揃えやすい
- スクールのメンバーや講師とのコネクションで仕事の受注や就職が有利になる
- 一緒に学ぶ仲間がいるのでモチベーションを保ちやすい
- インターンシップに参加できれば実践的な環境を確認できる
ただし、専門学校や大学に通うには数百万円レベルの出費が必要になるという大きなデメリットがあります。たとえば2年で卒業できる専門学校でも、平均学費は約250万円です。4年制の美術大学なら、約600万円の出費を覚悟しなければなりません。
また、専門学校や大学へのスクーリングが必要なら、忙しい社会人だと学ぶのが現実的に難しいという問題もあります。専門学校・大学でイラストを学びたい社会人は、夜間学校や通信講座の利用も検討してください。
忙しい社会人なら通信講座もおすすめ
近年では、忙しい社会人向けにイラストレーターのスキルを学べる通信講座が数多く登場しています。通信講座なら、出勤前後や休日などで都合がよい時間に、通学して学ぶような知識・スキルを体系的に学べます。料金は1コース約5万円や、総合的なコース・4年間で約40万円などが一般的です。
ただし、なかにはカリキュラム内容や講師が怪しい詐欺的な通信講座があるので注意しましょう。信頼や安心で選ぶなら、イラストを学べるコースのある有名な学校の通信講座を検討してみてください。
イラストレーターになるために必要なもの
イラストレーターとして働くためには、イラスト制作に必要なものを揃える必要があります。近年ではデジタルを利用したイラスト制作が主流であるため、デジタル用の機材・ソフトウェアでの対応を前提に学習を進めるのがよいでしょう。
イラストレーターになるために必要なもの | 概要 |
パソコン | 自宅外で学習・仕事をしない限りは、大きなモニターや絵を描いても動作が重くならないスペックが使えるデスクトップパソコンがおすすめ |
ペンタブ(ペンタブレット) | 描いた絵をデジタル処理してパソコン画面に取り込む道具 |
イラストソフト | 仕事兼練習で使用するならAdobeのIllustrator・Photoshopがおすすめ |
そのほかあると便利なもの | イラスト制作に対応できるタブレット端末、アナログの絵をパソコンに取り込めるスキャナ、アナログイラスト用の道具(カラー画材、ペン入れ用のペンなど) |
イラストレーターになるために必要な知識・スキル
イラストレーターになるためには、イラストを描く力だけでなく、イラストレーターの仕事の下地を支えるさまざまな知識・スキルが求められます。ここからは、イラストレーターになるために必要な知識・スキルを紹介します。
基本的なビジネスマナーや法遵守の姿勢
仮にフリーランスのイラストレーターとして活動する場合でも、社会人が最低限求められるレベルのビジネスマナーは身につけておきましょう。
また、クライアントの損害や自分への被害を回避するために、ある程度の法律知識や法遵守の姿勢を身につけるも大切です。とくにイラストレーターは生成AIの台頭によって深刻化しつつある、著作権法違反について知っておきましょう。
著作権侵害はれっきとした不法行為です。たとえば相手に無断でおこなう悪質なトレス行為は、損害賠償請求に発展するだけでなくイラストレーターとしての信用を大きく損ねることになります。
フリーランスとして働く場合およびインハウスデザイナーとして外部に発注する場合は、著作権法、下請法、独占禁止法、フリーランス・事業者間取引適正化等法といった法律の重要な部分を、一度確認しておくことをおすすめします。
参考:公益社団法人 著作権情報センター「著作権が制限されるのはどんな場合?」
参考:厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法」
クライアントのニーズを汲み取る力
クライアントが満足するイラストを納品するためには、クライアントがイラストに求めるニーズを汲み取る力が必要です。「クライアントがイラストに何を求めるのか」「なぜイラストが必要なのか」といったニーズをヒアリング・依頼書を通じて把握し、クライアントが求めるイラストを制作していきます。
ニーズを汲み取る力を高めることは、クライアントからの継続的な依頼や、やり直し・修正の防止にもつながります。
コミュニケーション能力全般
イラストレーターの仕事も、コミュニケーション能力があれば有利に働きます。
コミュニケーション能力が役に立つ事例は次の通りです。
- クライアントの潜在的なニーズを引き出し、顧客満足度を高められる
- クライアントや同業者と親交を深めることで、新しい仕事を紹介してもらいやすい
- イベントや交流会などでの営業活動で新規案件をもらえる
- クライアントやほかのクリエイターとスムーズにやり取りでき、プロジェクトをスムーズに進められる
相手を笑わせたり楽しませたりといった話術というより、必要なやり取りや対応を抜けなくスムーズにおこなう気遣いのほうが大切です。必要なコミュニケーションを積み重ねて信頼を勝ち取れば、新しい出会いやイラストの仕事につながるでしょう。
自分だけのオリジナリティを追求できる力
イラストレーターの増加や生成AIの台頭によって、イラストレーター同士の競争が激しくなってきました。イラストレーターとして生き残るには、ほかのイラストレーターにはないオリジナリティを追求し、差別化を図る必要があります。
オリジナリティの例は次の通りです。
- 「〇〇さんが描いた」と一発でわかるオリジナルの画風・センス
- 「キャラクターイラストなら〇〇さん」「細かい設計まで反映した専門絵なら〇〇さん」といった得意分野
- イラスト×Webデザイン、イラスト×CG、イラスト×マーケティングといったスキルの掛け合わせ
ほかの人には真似できないあなただけの武器があれば、クライアントやSNSのフォロワーに、あなたのイラストを強烈に印象付けられるでしょう。
イラストレーターになる際によくある疑問
最後に、イラストレーターになる際によくある疑問をまとめました。
イラストレーターの勉強や仕事に有利な資格はある?
イラストレーターに必要な資格はないものの、イラストレーターの勉強や仕事に役に立つ資格は存在します。たとえば、以下のものが挙げられます。
イラストレーターに役立つ資格 | 概要 |
Illustratorクリエイター能力認定試験 | Illustratorの基礎知識や活用スキルを測定する試験 |
Photoshopクリエイター能力認定試験 | Photoshopの基礎知識や活用スキルを測定する試験 |
カラーコーディネーター検定試験 | ビジネスシーンで使用する実践的な色彩の性質・特性を学ぶ検定 |
色彩検定 | ビジネスシーンに限らない色彩そのものの基礎知識を学ぶ検定 |
イラストレーターの年収は?
フリーランスのイラストレーターの年収は、取引先との契約内容やスキル・実力によって大きく変動します。
案件の規模の大きさや報酬体系次第では1件数百万円になることもあり、年収1,000万円を超えるイラストレーターも存在します。その一方で、年収100万円未満など、著しく低いイラストレーターもいます。
イラストレーターの将来性は?生成AIの存在は?
WebコンテンツやSNSの発達によってイラストを求めている法人・個人は以前より増加しており、イラストレーターの需要も高まっています。またイラストレーター個人がイラストを販売できるサービスも充実し、一般の人へイラストを直接販売できる動線も整ってきました。
イラストレーターとしてキャリアを積んでいけば、アートディレクターやマネージャーへの転身、デザイナーなどへのキャリアチェンジも見えてくるでしょう。
しかし一方で、競争相手も爆発的に増加しました。クラウドソーシングなどのサービスを利用した発注の活発化、デジタルツールの進化、情報発信の場の増加によって、以前よりもイラストレーターを始めやすくなったからです。競争相手の増加は、イラストレーターとしての生き残りの難しさにも直結します。
また、生成AIの台頭によって素人でもある程度のイラストを作成できる環境となり、イラストレーターの需要に大きな影響を及ぼしはじめています。これからイラストレーターには、競争相手や生成AIには出せないオリジナリティ、ホスピタリティ、イラスト以外のスキルも求められることになるでしょう。
イラストレーターになるには地道な努力が大切
未経験からイラストレーターになるには、まずイラストの基本を徹底的に学ぶことが重要です。イラストを学ぶには、独学、専門学校、大学、通信講座などの方法があります。自分に合った方法を選択してください。
また、イラストレーターになるには、絵を描く能力だけでなく、仕事を得て継続につなげるためのコミュニケーション能力やオリジナリティも必要です。「イラストが好き」という感情だけでなく、イラストレーターとして働くにはどうすればよいのかをしっかり考えて行動することが大切になるでしょう。
執筆者名Webライターあひる
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム