個人事業主・フリーランスは、事業実績や信用面が原因で、資金繰りに苦労することも珍しくありません。銀行や消費者金融から借りようと思っても、信用が足りなくて審査に落ちたり、金利が高くて返済が大変になったりなどのリスクが考えられます。
そこで個人事業主・フリーランスの資金調達先として、「日本政策金融公庫」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。日本政策金融公庫の融資なら、「創業したばかりでも申し込みやすい」「低金利で返済が楽になる」「返済期限が長い」といったメリットがあり、個人事業主・フリーランスでも利用しやすくなっています。
本記事では2024年10月時点における、日本政策金融公庫の概要、融資を受けるメリットと注意点、個人事業主・フリーランス向けの貸付の種類、融資審査に通過するためのコツなどを解説します。
日本政策金融公庫とは民間金融機関を補完する「政府金融機関」
日本政策金融公庫(株式会社日本政策金融公庫)とは、民間金融機関の機能を補完する目的で2008年に国が設立した政府金融機関です。「株式会社日本政策金融公庫法」と呼ばれる法律に基づいて設立・運営されており、同法によって国が株式の100%を常時保有することが定められています。
特殊な立ち位置ではあるものの、個人事業主を始めとする事業者にとっては安心して利用できる金融機関です。実際に日本政策金融公庫では、個人事業主・フリーランス向けにさまざまな融資をおこなってきた実績があります。
以下では、日本政策金融公庫の特徴や個人事業主・フリーランス向けに融資する「国民生活事業」の実績、日本政策金融公庫の窓口などについて解説します。
融資・支援が中心で預金業務はおこなっていない
日本政策金融公庫は、民間の銀行のように預金業務をおこなっていません。事業者への融資・支援業務を中心に、創業前・創業後の事業のサポートや、経済状況・災害などの悪影響に対するセーフティネット機能の提供などを担います。日本政策金融公庫の業務は、主に以下の3つに分かれます。
日本政策金融公庫の業務 | 概要 |
国民生活事業 | 小規模事業者・創業企業への事業資金融資や、子どもの教育にお金が必要な人へ教育資金融資をおこなう事業 |
農林水産事業 | 農林漁業や食品産業を担う事業者への融資や支援をおこなう事業 |
中小企業事業 | 日本経済の活力である中小企業・小規模事業者への融資や信用保険などをおこない、中小企業・小規模事業者の成長・発展を支援する事業 |
個人事業主やフリーランスは、国民生活事業の融資制度を利用するのが一般的です。事業規模がそれなりに大きい中小企業は、中小企業事業の融資が主な対象になります。
参考:日本政策金融公庫「政策金融機関の業務の概要」
個人事業主・フリーランス向けは国民生活事業の融資
国民生活事業とは、「地域の身近な金融機関」として個人事業主を含む小規模事業者、これから事業を始める創業企業などへ事業融資をする、日本政策金融公庫の事業の1つです。
中小企業向けというより、街の小売店、飲食店、美容室、工務店などへ融資を実施しています。つまり、個人事業主・フリーランス向けの融資をおこなうのは国民生活事業です。
日本政策金融公庫の公式サイトによると、融資先の約9割が「従業員9人以下の小規模事業者」となっています。とくに4人以下の事業者への融資が多く、毎年6~7割程度で推移してきました。1融資先あたりの平均融資額は2018〜2022年の5年間で700万〜1,000万円と、小口規模の融資の実施が中心です。
過去の法人・個人の利用割合は、法人約6割・個人約4割で推移しています。2022~2023年度だけに絞ると、個人での利用が5割近くまで上がっています。
1つ注目すべきは、「融資金の担保別内訳」にて無担保融資が約9割を占めている点です。2020〜2022年は割合が98〜99%、それ以前も85%以上となっており、多くの人へ無担保融資を実施していることがわかります。
担保となる資産や保証人を準備するのが大変な個人事業主・フリーランスにとって、無担保・無保証人の融資が利用できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
参考:日本政策金融公庫「国民生活事業の業務の概要」
参考:日本政策金融公庫「融資の状況」
参考:日本政策金融公庫「毎月の融資実績、業務統計年報」
沖縄以外の都道府県に全152か所
2024年現在、日本政策金融公庫の窓口は沖縄以外の都道府県に1か所以上、全国で152か所存在します。
個人事業主・フリーランスの利用が多い国民生活事業は、152の支店すべてで窓口が開かれています。農林水産事業や中小企業事業の融資・支援を利用したいときは、事業をしている都道府県の日本政策金融公庫の窓口に問い合わせてみてください。
沖縄には日本政策金融公庫に相当する業務をおこなう、沖縄振興開発金融公庫があります。将来的には沖縄振興開発金融公庫も、日本政策金融公庫と統合される予定です(2022年度以降に延期)。
このように日本政策金融公庫と沖縄振興開発金融公庫を合わせると全国に支店が存在するため、個人事業主・フリーランスは都道府県外に出なくても相談に赴くことができます。ただし都道府県によっては県内に支店が1つしかないなど、民間の金融機関と比較して窓口が少ないので注意しましょう。
参考:日本政策金融公庫「店舗案内」
個人事業主が日本政策金融公庫の融資を利用するメリット
日本政策金融公庫の融資制度は、民間の金融機関からの融資とは違ったメリットがあります。個人事業主・フリーランスが日本政策金融公庫の融資を利用するメリットは、主に次の5つです。
- 無担保・無保証人の融資制度を利用できる
- 民間の金融機関よりも金利や返済期間の面で借りやすい
- 融資の審査に通りやすい傾向がある
- 融資の手続きが少ない
- 融資されたら信用実績が上がりほかの融資を受けやすくなる
それぞれの詳細を見ていきましょう。
無担保・無保証人の融資制度を利用できる
日本政策金融公庫の融資制度の大きな特徴は、無担保(物的担保なし)・無保証人(人的担保なし)の融資制度が利用できる点です。
無担保・無保証人の融資なら、不動産、宝飾品、株式といった担保になる財産、自分の代わりに返済義務を負う人などを準備しなくても申し込めます。たとえば個人事業主・フリーランス向けの「新規開業資金」や「マル経融資」が、無担保・無保証人で利用できる融資制度です。
なぜ無担保・無保証人の融資制度が成立するかと言うと、日本政策金融公庫が国から100%の出資を受けて運営されているからです。政府出資金、財投機関債、政府保証債、財政投融資などで資金調達をおこない、中小企業や個人事業主、個人へお金を貸しています。
なお無担保・無保証人で借りられる融資でも、担保が用意できるなら担保ありで申し込めます。担保ありにすると、無担保・無保証人のままよりも低金利でお金を借りることが可能です。
民間の金融機関よりも金利や返済期間の面で借りやすい
日本政策金融公庫の融資は「低金利」「長い返済期間」で設定されているため、民間の金融機関よりも安心して借りやすいメリットがあります。
たとえば民間の金融機関から融資を受ける場合の金利は、銀行や信用金庫なら年1〜14%、大手消費者金融なら年3〜18%と上限金利が高い傾向にあります。一方で日本政策金融公庫の融資なら、無担保・無保証でも年約2.35〜3.45%(国民生活事業の基準利率、税務申告2期終えている事業者)です。特別利率が適用される融資なら、年1〜3%になります。
銀行のプロパー融資(信用保証協会を介さず銀行が直接お金を貸す方法)なら平均金利は年1~3%に収まるものの、貸し倒れのリスクから審査ハードルを相当に厳しくしているのが一般的です。しかし日本政策金融公庫なら、まだ創業したての事業者でも申し込みできます。
また日本政策金融公庫の融資は原則として固定金利であるため、返済中に金融市場の状況が変化しても、借入時の利率が完済するまで適用されます。融資を受ける個人事業主・フリーランスは、長期間の借入でも返済スケジュールを立てやすくなるでしょう。
日本政策金融公庫の融資制度のもう1つの特徴として、返済期間の長さが挙げられます。融資制度にもよりますが、返済期限は運転資金で最長7年、設備資金で最長20年程度です。返済期限が長めなら、事業が軌道に乗るまでキャッシュフローを安定させことができます。資金繰りに苦労する個人事業主・フリーランスにとって、大きなメリットだと言えます。
参考:日本政策金融公庫「国民生活事業(主要利率一覧表)」
融資の審査に通りやすい傾向がある
日本政策金融公庫の融資制度は、創業して間もない事業者や資金繰りが厳しい事業者でも、融資の審査が通りやすい傾向にあります。日本政策金融公庫の設立目的が、中小企業・小規模事業者への支援を通じて「日本全体や地域事業の経済の成長・発展」「緊急時のセーフティーネット機能」を実現することだからです。
そのため、事業実績や財務状況がまだ整っていない個人事業主・フリーランス相手でも、日本政策金融公庫からなら積極的な融資を期待できます。民間の金融機関の融資審査に落ちた人も、日本政策金融公庫の融資審査なら通過できるかもしれません。
ただし審査が甘いというわけではなく、日本政策金融公庫の融資でも審査落ちになるケースは存在します。「この人に貸しても、期限内の返済や将来的な成長が期待できない」と判断されると、いくら日本政策金融公庫であってもお金を貸してはくれません。
審査に通過するには、「自分は融資さえあれば事業をもっと成長させられ、将来的にお金を返せるようになること」を、事業計画書や面談を通じて審査担当者に伝えられるかが重要です。
融資の手続きが少ない
民間の金融機関の融資のなかには、信用保証協会の審査が必要なものがあります。信用保証協会とは、金融機関から融資を受ける事業者の保証人となることで、事業者の融資枠拡大や長期借入時の保証を可能にする組織です。事業者の融資の返済が滞ったときに、金融機関へ代位弁済する役割もあります。
信用保証協会の保証付きの融資を受けるには、金融機関と信用保証協会の両方の審査に通過しなければなりません。審査期間や必要な手続きが増えてしまいます。
一方で日本政策金融公庫の融資は信用保証協会を経由しないため、審査や手続きは原則として1回のみです。これにより、民間の金融機関よりも早めに融資を受けられる可能性があります。日本政策金融公庫からの融資だと、一般的には申込から約1か月で振り込まれます。
融資されたら信用実績が上がりほかの融資を受けやすくなる
日本政策金融公庫からの融資を受けると、審査に通過して融資をされたという「信用実績」を作ることができます。日本政策金融公庫を利用した実績があれば、「日本政策金融公庫がお金を貸した信用できる事業者」とほかの金融機関からも評価されます。
信用実績が事業者としての将来性や返済能力の証明になるため、ほかの金融機関からの評価が高まり、銀行や信用金庫の融資でも受けやすくなるでしょう。日本政策金融公庫の融資を受ける、融資を使って事業実績を積む、積み上げた信用実績と事業実績で信用を高めてさらなる融資を利用する、といった好循環を期待できます。
個人事業主が日本政策金融公庫の融資を利用するときの5つの注意点
日本政策金融公庫の融資は、個人事業主・フリーランスにとってメリットが大きいものの、利用する際には以下5つの注意点が存在します。
- 必ずしも希望の融資額にはならない
- 民間金融機関の融資の借り換えには利用できない
- 業績がよくなっても金利の変動がない
- 返済不能になったら信用が落ちる
- 相性がよくない担当者に当たる可能性がある
それぞれの詳細を見ていきましょう。
必ずしも希望の融資額にはならない
日本政策金融公庫の融資は、必ずしも希望の融資額にはなりません。民間の金融機関の融資と同じく、審査の結果によって最終的な融資額が変動するからです。融資希望額に見合う事業計画、事業実績、資金の使用用途でなければ、減額や却下になる可能性があります。
融資額が希望に届かないときは、自己資金でまかなう、ほかの融資制度を利用するなどで対応しなければなりません。また、ほかの方法として、日本政策金融公庫と民間金融機関が協力しておこなう協調融資が挙げられます。
協調融資とは、日本政策金融公庫と民間金融機関が連携し、お互いが情報交換しながら対応する融資制度です。双方の強み、専門性、ネットワークを駆使して、より幅広い資金調達をサポートします。日本政策金融公庫としても貸し倒れリスクを軽減できる方法であるため、単体への申込では難しい高額融資でも、協調融資なら認められるかもしれません。
このように、日本政策金融公庫は、審査の結果として希望の融資額にならない場合でも、資金面での事業者を助ける取り組みを提供しています。
参考:日本政策金融公庫「民間金融機関との連携の取り組みについて」
民間金融機関の融資の借り換えには利用できない
日本政策金融公庫の融資は、原則として民間金融機関の融資の借り換えには利用できません。融資の借り換えとは、今受けている融資の返済が残っている状態で新しい融資を受け、その新しい融資を既存の融資の返済に充てることです。
たとえば金融機関Aから融資を受けて返済残額300万円・年利10%となっている場合、金融機関Bの融資が500万円・年利3%なら、Bの融資でAの返済をすれば実質的に返済残額の金利を10%から3%に下げられます。そこで金融機関Bで500万円を借りた後、その500万円で金融機関Aの残額300万円を返済します。これが融資の借り換えです。
しかし、日本政策金融公庫の融資では、民間の金融機関の融資の返済をおこなう行為が禁止となっています。もし日本政策金融公庫での借り換えがまかり通ると、民間の金融機関の融資額や利息額が減少し、健全な経営および利益を大きく損なうからです。
実際に日本政策金融公庫の借入申込書には、「原則として、ほかの金融機関の借入金のお借換えにはご利用いただけません。公庫資金においても、お借換えいただけない制度があります。」と注意書きがあります。
業績がよくなっても金利の変動が少ない
日本政策金融公庫は固定金利であるため、事業業績や金融市場に左右されず、契約時の金利が最後まで適用されます。逆に言えば、いくら日本政策金融公庫の利用実績が増えたり、事業の売上がよくなったりしても、返済中は金利は安くならずに固定されたままです。
一方で民間の金融機関は、業績や財務状況に応じて金利を上下させるのが一般的です。ケースによっては、日本政策金融公庫の融資よりも低い金利になる可能性があります。
返済不能になったら信用が落ちる
日本政策金融公庫は、ほかの金融機関と同じく返済不能に陥った事業者に対しては、返済に関する必要な措置を講じます。日本政策金融公庫の返済を滞納していると、次のような流れで支払いを求められます。
- 催促の電話や督促状がくる
- 遅延損害金を含めた元金・利息の一括返済を求められる
- 日本政策金融公庫から保証会社・債権回収会社へ債権が移り、裁判所にて訴訟を提起される
- 財産・給与の差し押さえがおこなわれる
日本政策金融公庫の融資の損害遅延金は、年8.7%です。支払いを滞納すると、損害遅延金分の返済額が上乗せされるうえに、各所でさまざまな対応に追われます。そして何より、滞納した事実が信用情報機関に異動情報として記録され、個人事業主・フリーランスとしての信用情報にキズが付いてしまうでしょう。
信用情報にキズが付けば、新しいクレジットカードの発行、車両・住宅ローンを含む新しい融資の利用、賃貸契約などが事実上不可能になります。信用が命の個人事業主・フリーランスにとって、事業や生活を続けるうえで致命的ダメージになりかねません。
もし日本政策金融公庫の融資の返済に困ったときは、滞納するのではなく、すぐに窓口に相談しましょう。支払いの猶予や分割払いなどの返済緩和について、柔軟に対応してくれる可能性があります。
参考:日本政策金融公庫「ご返済や資金調達でお困りのお客さまへ」
相性がよくない担当者に当たる可能性がある
日本政策金融公庫の担当者のなかには、あなたと相性が合わない人がいる可能性があります。担当者は個人ごとに得意分野、能力、性格、態度などが異なっており、全員が一律同じ対応をしてくれるとは限らないのが現実です。
利用者のなかには、「面談のときに威圧的に接しられた」「うまくサポートしてくれない」という意見を持つ人も見られます。
もし相性がよくない担当者と当たってしまったときは、「その担当者にとって好ましい対応や提案方法を模索する」「相性が悪いと正直に支店の上司へ相談してみる」「公式サイトの問い合わせ窓口に相談してみる」などの対策を講じてみてください。
個人事業主やフリーランス向けの日本政策金融公庫の融資制度
日本政策金融公庫が実施する融資には、中小企業向けのものから、個人向けの教育ローンまでさまざまな種類が存在します。個人事業主・フリーランスが日本政策金融公庫の融資を利用したいときは、個人事業主・フリーランス向けの融資制度を選んで申し込むことが大切です。
ここからは、日本政策金融公庫の国民生活事業において個人事業主・フリーランスが使える融資制度を紹介します。具体的には、次の通りです。
- 新規開業資金
- マル経融資
- セーフティーネット貸付
- 一般貸付
上記はそれぞれ融資対象、融資上限額、返済期間などが異なります。事業内容や財務状況に合うものを選んでください。以下では、それぞれの融資制度の詳細を見ていきましょう。
新規開業資金
新規開業資金とは、新しく事業を始めるまたは事業開始から7年以内の女性、若者、シニア、廃業歴ありで再チャレンジを志す人、中小会計を適用する人などを対象におこなう創業融資の1つです。
新規開業資金 | 概要 |
利用対象者 | 新事業について適正な事業計画と計画を遂行する能力があると認められた人のうち、以下のいずれかに該当する人 ・新しく事業を始める ・事業開始後おおむね7年以内 |
資金用途 | 新事業の開始や事業開始後に使用予定の設備資金・運転資金 |
融資限度 | 7,200万円(うち4,800万円は運転資金) |
返済期間 | 設備資金20年以内(うち据置期間5年以内) |
運転資金10年以内(うち据置期間5年以内) 廃業歴があって創業に再チャレンジする人は15年以内 | |
無担保融資の金利(年) | 基準利率 ・税務申告を2期終えていない:2.6~3.7% ・税務申告を2期終えている:2.35~3.45% |
特別利率A(女性、35歳未満、55歳以上などに該当する人) ・税務申告を2期終えていない:2.2~3.3% ・税務申告を2期終えている:1.9~3.05% | |
特別利率B(特定のセミナーを受けた女性または35歳未満の人などの条件に該当する人) ・税務申告を2期終えていない:1.95~3.05% ・税務申告を2期終えている:1.7~2.8% | |
特別利率C(技術・ノウハウなどに新規性が見られるなどに該当する人) ・税務申告を2期終えていない:1.7~2.8% ・税務申告を2期終えている:1.45~2.55% | |
担保・保証人の有無 | 申込者の希望を参考に相談有担保なら金利の軽減措置あり |
新規開業資金は、2024年3月31日に「新創業融資制度」が廃止された後、新創業融資制度の内容を取り込んだ新しい融資として運用が開始されました。新創業融資制度では存在した「創業資金総額の1/10以上の自己資金要件」も、排除となっています。
新創業融資制度と比較すると、融資の上限額や融資対象が拡充され、より多くの個人事業主・フリーランスが利用しやすくなりました。とくに以下に該当する人なら、基準利率よりも利息が安くなる特別利率が適用されます。
- 女性、35歳未満、55歳以上
- 外国人起業活動促進事業における特定外国人起業家の人で新しく事業を始める
- 創業塾や創業セミナーなどを受けて新しく事業を始める
- 中小会計を適用する予定で、自分で事業計画書を策定しつつ、認定経営革新等支援機関による指導・助言を受けている
- 地域おこし協力隊の任期を終了し、地域おこし協力隊として活動した地域で新しく事業を始める
- Uターンなどで地方に新しく事業を始める
- デジタル田園都市国家構想交付金を活用した起業支援金、または起業支援金・移住支援金の両方を受けて新しい事業を始める
- 日本ベンチャーキャピタル協会の会員等から出資を受けている、または出資が見込まれる
- 技術・ノウハウなどに新規性がみられる
さらに新規開業資金を利用する人で事業が創業期に該当する場合は、さまざまな金利の引き下げ制度の利用が可能です。
たとえば新事業を始める人・事業開始後で税務申告を2期終えていない人は、一定の要件をクリアした事業計画を策定すると、「創業後目標達成型金利」が適用されます。融資から3年経過後の金利を、0.2%引き下げられます。
また、0.65%(雇用の拡大を図る場合は0.9%)引き下げになる「創業支援貸付利率特例制度」の適用が可能です。このように新規開業資金は、日本政策金融公庫の融資のなかでも業種問わず、個人事業主・フリーランスにとって使いやすい資金調達だと言えるでしょう。
参考:日本政策金融公庫「新規開業資金」
参考:日本政策金融公庫「創業後目標達成型金利」
参考:日本政策金融公庫「創業融資のご案内」
参考:日本政策金融公庫「創業支援貸付利率特例制度の概要」
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)
マル経融資(小規模事業者経営改善資金)とは、地域の商工会議所や商工会などから経営指導を受けている小規模事業者の商工業者が対象の融資制度です。
マル経融資 | 概要 |
利用対象者 | 商工会議所、商工会、都道府県商工会連合の実施する経緯指導を受けている小規模事業者(商工業者に限る)で、商工会議所などの長の推薦を受けた人 |
資金用途 | 経営改善に必要な資金 |
融資限度 | 2,000万円 |
返済期間 | 設備資金:10年以内(うち据置期間1年以内) |
運転資金:7年以内(うち据置期間2年以内) | |
適用される金利(年) | 特別金利F 1.45% |
担保・保証人の有無 | 無担保・無保証人 |
マル経融資も新規開業資金と同じく、無担保・無保証人で利用できます。金利は一律1.45%と、非常に低金利でお金を借りられます。融資限度は2,000万円と新規開業資金よりは低いものの、個人事業主・フリーランスにとっては十分な金額だと言えるでしょう。
マル経融資へ申し込むには、商工会議所などからの推薦が必須です。推薦要件は次の通りです。
- 原則6か月以上、商工会議所、商工会などの経営改善普及事業に基づく経営指導を受けている
- 最近1年以上、商工会議所、商工会などの地区内で事業をおこなっている
- 所得税、法人税、事業税、都道府県民税、市町村民税をすべて完納している
- 商工業者で日本政策金融公庫の国民生活事業の非対象業種等ではない
なおマル経融資の申込に関係なく、商工会議所や商工会は個人事業主・フリーランスにとって非常に便利な組織です。経営相談、地域の事業者との交流、士業の紹介、補助金関係の対応など、地域の事業者へさまざまなサポートを実施しています。まだ利用したことがない個人事業主・フリーランスは、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
参考:日本政策金融公庫「マル経融資(小規模事業者経営改善資金)」
参考:商工会議所「マル経融資」
セーフティーネット貸付
自分の事業が社会や経済環境の影響を大きく受けたときや、取引先が倒産して売上が回収できないといったときは、「セーフティーネット貸付」が使える可能性があります。セーフティーネット貸付には、「経営環境変化対応資金」と「取引企業倒産対応資金」があります。
経営環境変化対応資金
経営環境変化対応資金とは、社会や経済状況が原因で一時的に経営が厳しくなった事業者が利用できるセーフティーネット貸付の1つです。自社の責任ではなく、外的要因で業績が悪化してしまったときに活用の検討をおすすめします。
経営環境変化対応資金 | 概要 |
利用対象者 | 次のいずれかに該当する人 ・最近の決算期における売上高が前期または前々期に比し5%以上減少している ・最近3ヵ月の売上高が前年同期または前々年同期に比し5%以上減少しており、かつ、今後も売上減少が見込まれる ・最近の決算期における純利益額または売上高経常利益率が前期または前々期に比し悪化している ・最近の取引条件が回収条件の長期化または支払条件の短縮化等により、0.1ヵ月以上悪化している ・社会的な要因による一時的な業況悪化により資金繰りに著しい支障を来している方または来すおそれのある ・最近の決算期において、赤字幅が縮小したものの税引前損益または経常損益で損失を生じている ・前期の決算期において、税引前損益または経常損益で損失を生じており、最近の決算期において、利益が増加したものの利益準備金及び任意積立金等の合計額を上回る繰越欠損金を有している ・前期の決算期において、税引前損益または経常損益で損失を生じており、最近の決算期において、利益が増加したものの債務償還年数が15年以上である |
資金用途 | 社会や経済環境の変化によって緊急的に事業の維持や経営基盤の強化に使用する資金 |
融資限度 | 4,800万円 |
返済期間 | 設備資金:15年以内(うち据置期間3年以内) |
運転資金:8年以内(うち据置期間3年以内) | |
適用される金利(年) | 基準利率 ・税務申告を2期終えていない:2.6~3.7% ・税務申告を2期終えている:2.35~3.45% |
特別利率Q(一定の要件に該当する人) ・税務申告を2期終えていない:2.2~2.7% ・税務申告を2期終えている:1.95~2.45% | |
担保・保証人の有無 | 申込者の希望を参考に相談 有担保なら金利の軽減措置あり |
参考:日本政策金融公庫「経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)」
取引企業倒産対応資金
取引相手などの関連企業が倒産したことで経営困難に陥った場合は、取引企業倒産対応資金の対象になる可能性があります。売掛金債権が回収できない、大口の取引先がなくなって困っているといった場合に、活用の検討をおすすめします。
新規開業資金 | 概要 |
利用対象者 | 取引先などが倒産して経営が困難になっている人で以下に該当する場合 ・倒産した企業に対して50万円以上の売掛金債権などを有する ・倒産した企業に対する取引依存度が20%以上である ・倒産した企業に対して貸付金や差入保証金などの債権を有する ・倒産した企業の債務を保証している ・倒産した企業の設置する商業施設に入居している方であって、倒産の影響を受けている方または影響を受けるおそれのある ・倒産した企業から受注した商品や役務などが、倒産の影響により取り消された |
資金用途 | 売掛金回収困難、売上減少などに対応するために必要な資金 |
融資限度 | 別枠3,000万円 |
返済期間 | 8年以内(うち据置期間3年以内) |
適用される金利(年) | 基準利率 ・税務申告を2期終えていない:2.6~3.7% ・税務申告を2期終えている:2.35~3.45% |
担保・保証人の有無 | 申込者の希望を参考に相談 有担保なら金利の軽減措置あり |
参考:日本政策金融公庫「取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)」
一般貸付
国民生活事業の新規開業資金やマル経融資などの特別貸付とは別に、事業者のほとんどが利用対象になる「一般貸付」があります。
一般貸付は業種や事業規模などに関係なく申し込めることから、新規開業資金やマル経融資などの条件に該当しない個人事業主・フリーランスはこちらを利用するのがよいでしょう。
もし税務申告を2回終えていない場合なら、新規開業資金と同じく金利を一律0.65%下げられる創業支援貸付利率特例制度を適用できます。
新規開業資金 | 概要 |
利用対象者 | ほとんどの業種の中小企業・小規模事業者 |
資金用途 | 事業に関する資金 |
融資限度 | 運転資金・設備資金:4,800万円 |
特定設備資金:7,200万円 | |
返済期間 | 設備資金:10年以内(うち据置期間2年以内) |
運転資金:5年以内、とくに必要な場合7年以内(うち据置期間1年以内) | |
特定設備資金:20年以内(うち据置期間2年以内) | |
適用される金利(年) | 基準利率 ・税務申告を2期終えていない:2.6~3.7% ・税務申告を2期終えている:2.35~3.45% |
担保・保証人の有無 | 申込者の希望を参考に相談 有担保なら金利の軽減措置あり |
参考:日本政策金融公庫「一般貸付」
個人事業主が日本政策金融公庫の融資を受ける流れ
ここからは、個人事業主・フリーランスが日本政策金融公庫の融資を受けるためのおおまかな流れを解説します。
融資の申請・融資に関する相談をおこなう
個人事業主・フリーランスが日本政策金融公庫の融資を受けるには、まずは日本政策金融公庫の窓口に融資の申請をおこないます。申請方法は、インターネット申込と郵送の2つです。個人事業主やフリーランスの人が初めて利用するとき、必要な書類は次の通りです(インターネット申込の場合は電子データとして提出)。
- 最近2期分の確定申告書(1期分しかないときは1期分、ないときは必要なし)
- 設備資金の申込用の見積書(設備費用、工事費用など)
- 創業計画書
- 企業概要書(創業計画書を提出するときは不要)
- 運転免許証、パスポートなどの本人確認書類
- 許認可証(許可・届出が必要な事業を営んでいる場合)
- 借入申込書 国民生活事業(郵送で提出するときのみ)
- そのほか申込する融資の種類に応じた書類
「まだ融資を受けるかどうか決まっていない」という場合は、融資申込の前に事前相談ができます。電話で相談したいときは、「事業資金相談ダイヤル」を利用してください。支店窓口やMicrosoft Teamsを利用したオンライン面談による本格的な相談は、支店の窓口やビジネスサポートプラザにて事前予約が必要です。
必要書類の書式は、公式サイトの国民生活事業「各種書式ダウンロード」にてダウンロードできます。
参考:日本政策金融公庫「個人企業・小規模企業の方」
参考:日本政策金融公庫「創業予定の方」
日本政策金融公庫の担当者との面談をおこなう
日本政策金融公庫の担当者との面談では、「融資を何に使うのか」「事業の状況や運営方針」「事業の成長性・将来性」などについて詳細な聞き取りがおこなわれます。融資を受けられるか否かは面談の内容によるため、しっかりと準備して臨みましょう。
面談では、事業計画書、事業に関する資料、資産・負債がわかる資料などを持参する必要があります。具体的には、「自己資金額を証明するもの(預金通帳のコピーなど)」「確定申告書や決算書(貸借対照表・損益計算書)」「ほかの機関からの借入の返済予定表」などです。
もし審査に落ちた後でも再審査は可能ですが、6か月以上経たないと審査に通過するのは難しいとされるのが一般的です(再申請自体は可能)。また時間が経った後でも、審査に落ちた原因を推測して改善しなければ審査には通らないでしょう。
融資手続きを進める
融資が決定したら、日本政策金融公庫からの案内にしたがって融資の契約に関する手続きを進めます。手続きに不備がないよう、申込方法や必要書類を確認しておいてください。申込が終われば、指定した口座へ決定した融資額が振り込まれます。
融資を受けたら、返済期間や金利にしたがって返済がスタートします。返済は、原則として月払いです。返済方法は、元金均等返済、元利均等返済、ステップ返済などから希望の方法を選びます。
個人事業主が日本政策金融公庫の融資を受けるためのコツ
中小企業と比較して、個人事業主・フリーランスは事業規模や資金力の確保が難しいのが現状です。そのため、日本政策金融公庫へ融資の申込をおこなうときも「審査に通過するためのコツ」を意識することが大切になります。
以下では、個人事業主・フリーランスが日本政策金融公庫の融資を受けるためのコツとして、もっとも重要な「事業計画書」と「自己資金」について解説します。
審査に通過できるよう事業計画書を作り込む
日本政策金融公庫の融資審査に通過するには、担当者に融資を納得してもらえる事業計画書を作れるかが最重要ポイントと言えます。以下を意識して、事業計画書を作り込んでください。
- 事業内容、資金用途、融資の返済計画、取引先名、従業員数、売上目標、資金計画などを具体的に記載しているか
- 現在の事業状況や財務状況を照らし合わせ、実現性はあるのか
- 事業の収益性、成長性、将来性が、市場状況や競合他社を分析したうえで明確になっているか
- 6W2H(いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どのように、なぜ、いくら)を基本に情報を記入しているか
- 事業計画書の記載内容に対して、根拠となる分析データや商品・サービスの特徴が掲示できているか
- 個人事業主・フリーランスとしての独自の強みが洗い出せているか
事業計画書の作成に関して相談したいときは、「融資の申請・融資に関する相談をおこなう」で紹介した相談窓口を利用するのがよいでしょう。また、中小企業診断士や税理士などの専門家、商工会議所・商工会などの組織、認定経営革新等支援機関などへの相談もおすすめです。
自己資金を準備する
新規開業資金といった創業融資における自己資金要件はなくなったものの、自己資金が多いほど担当者からの印象はよくなります。自己資金ゼロで申し込む前に、いくらか自己資金が準備できないか確認しておくことをおすすめします。
たとえば「2023年度新規開業実態調査」によると、2023年度に日本政策金融公庫の国民生活事業で融資した企業のうち、開業時の自己資金は平均280万円でした。これは開業時の平均資金調達額1,180万円の2割強を占めています(金融機関等からの借入は平均768万円)。2022年度以前も、自己資金の割合は2~3割で推移しています。
以上のことから、自己資金を準備するときは開業資金の2割を目安にするのがよいでしょう。
まとめ
日本政策金融公庫の「新規開業資金」や「マル経融資」なら、個人事業主・フリーランスでも融資が受けられる可能性があります。日本政策金融公庫はその設立目的にもあるように、創業したばかりの事業者を含めて積極的な支援をおこなっています。「無担保・無保証人」「低金利」といったメリットも多いため、ぜひ活用を検討してみてください。
日本政策金融公庫の融資審査を通過するには、事業計画書の作り込みや自己資金の準備が非常に重要です。自分1人で審査対策を進めるのが困難なときは、日本政策金融公庫の支店窓口、専門家、商工会議所、認定経営革新等支援機関などへ相談しサポートを受けることを推奨します。
執筆者名CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム