当サイトは、フリーランスで頑張る方々へ有益な情報やスキルアップ情報をお伝えすることで、日本のフリーランスを「本気で」応援しているサイトです。今回、経営者や個人事業主として成功されている先輩方がどのような道をたどったか、どのような葛藤や決断があったかを本音で語ってもらう新連載をスタートしました。その第一弾として、現在はM&Aドットコム株式会社の代表取締役である藤澤專之介氏(以下藤澤様)に、起業やM&Aを考えているなら絶対知っておいた方がいい事を詳しくお伺いいたしました。
藤澤様は2018年にRPAを専門に扱うPeaceful Morning株式会社を創業。独自のマーケティング手法や様々な試行錯誤を経て事業を拡大し、2022年に同社をクラウドワークスへ売却(M&A)しました。現在は、ご自身がM&Aを検討した際に、「事業を売る側」の欲しい情報が不足していると実感した経験から、M&Aを考える起業家を支援するためのアドバイスサービスを行っています。
会社員時代とは全く異なる分野で起業したにも関わらずたった4年でM&Aを実現した背景や導いてくれた運命的な出会いなどを本音で語ってくださったので、将来M&Aを考える起業家やフリーランスの皆様、ぜひ参考にされてください。
事業責任者に抜擢された私が起業をしたいと思った理由は「未来の姿を想像してもワクワクしなかった」から
ー今日はお忙しい中お時間を頂戴し、ありがとうございます。まずは順調なサラリーマン生活の中から起業を考え始めたきかっけを教えてください
私は起業前に9年ほど大手の人材会社に勤め、営業や新規事業開発を担当していました。自分の大きな転機となったのは、最後に関わった新規事業の立ち上げです。新規事業立ち上げに抜擢されたことは大変嬉しく、大変ではあったものの試行錯誤しながら初めてゼロイチを立ち上げる経験をさせて頂きました。ところが、それがどうにかやっと軌道に乗り始めたころ、その先の自分の姿を想像してもあまりワクワクしないなと感じてしまったのです。
新規事業が成功すれば会社では偉くなれるかもしれませんが、会社員でいる以上給与はそこまでは上がらないでしょう。そんな未来が見えてしまったんです。しかし自分で起業をすればIPOやM&Aなどを目指すことで、自分の努力次第で大幅に報酬が上げられる可能性があります。
こういった報酬面もありましたが一番大きなきっかけは、新規事業立ち上げのために様々な起業家の交流会などに参加してお話をしていくうちに「自分もあちら側に行きたい」と強く思うようになったことです。当時はあくまで大手人材会社の新規事業担当者として経営者の会に参加していたため、全てを賭けて事業を回しているスタートアップの社長方とは立場がまるで違います。名刺交換をするたびに、大きなリスクを取らずに企業内にいる自分に引け目を感じるようになってきたんですね。
その頃から「自分もあちら側に行く」ということを意識するようになりました。
これが起業を考え始めたきっかけです。
起業時に踏み切れた理由と当初感じた不安とは
ー会社員として評価されて新規事業を任されるなど、順風満帆な中退職するのは不安はありませんでしたか?
最初は退職への不安もありましたが、交流会で多くの経営者にお会いしたり、プロボノで起業を支援していたこともあり、段々と起業が身近かなものになっていきました。何より、自分で責任を持ちながら起業をしている方々はやはりカッコよく見えましたしね。起業自体は100万円くらいの元手でも可能なことから、次第に「リスクよりも圧倒的にリターンが大きい」と思うようになりました。ある程度の資金も貯めて、新規事業立ち上げから1年後にしっかりと引き継いで退職いたしました。
退職後すぐに、会社員の経験を活かしてフリーランスで人事の仕事を頂き、会社員時代の収入を確保できたのは大きかったです。退職時に妻に「会社員時代と同じ給与は稼いでね」と言われたので、それは大きな指針になっていましたので。
しかし一方で、何で起業するかがなかなか定まらず、「このままフリーランスの人事をズルズル続けていってしまうのではないか。きちんと事業を立ち上げることができるのだろうか」という不安もありましたね。
事業内容を変えたにも関わらず短期でM&Aを成功させた、投資家からの2つの金言
ー事業内容を決めた背景やきっかけは?

私が起業を考えた大きなきっかけの一つに「子供が生まれたので家族との時間をもっと増やしたい」というのがありました。そのため、退社時には、何か子供関連で起業をしたいと思っていたのです。しかし、子育てビジネスに関わった経験もないので、色々考えてみたもののなかなか事業がうまくいくイメージがつきません。
そんな時に、起業家の集まりで投資家の方と知り合い、「最初の起業は、やりたいことよりもできることが良い」というアドバイスをいただいたのです。子育て関連の起業はまさに、私にとって「経験はないけどやりたいこと」。しかし、これではダメなんだとそのアドバイスでハッとしたのが大きな転機となりました。
またもう一つ、「起業するなら市場が伸びている分野を狙え。それなら自分が優秀じゃなかったとしても市場に合わせて売上も勝手に伸びていく」というアドバイスを頂いたのも大きかったですね。私はその時、外資のRPAの会社で人事のお手伝いをしていたので、まさに市場がどんどん広がり採用も増やしているのを目の当たりにしていたんです。そこで最終的には「これだ!」とRPAで起業することを決意しました。
アドバイスされたことを愚直にコツコツと3ヶ月続けた結果、転機が訪れる
ー起業の事業内容をRPAに決めてから、具体的にはどのように事業化していったのでしょうか?
アドバイスを頂いた方から「毎日情報を発信した方が良い」と言われたので、まずはRPAに関する情報を発信するブログを始めました。私が起業した2018年頃はまだまだRPAが広く普及する前で「何か便利そうな仕組みがある」程度の認識でした。そこでRPAの最新情報やRPAで何ができるのか、などの情報発信を始めました。そのうちに「専門家にインタビューするためにはブログよりもメディアの方が良い」と考えてブログから『RPA HACK』というメディアにし、最初の数ヶ月はしっかりと日々更新することが私のタスクでした。
これを愚直に、コツコツと3ヶ月続けていたら、4ヶ月目に初めて仕事の依頼が入ったのです。内容はRPAではなく、メディアの立ち上げサポートでした。そこからさらに発信していくと、RPAの技術者からメッセージが来るようになったりRPAの技術者を探している企業から問い合わせが来るように。そこでメデイア内に「人材募集」を出したり、登録者が増えてくると企業の要望に合わせてマッチングを行うなど、徐々に事業範囲が広がっていきました。
ーRPAで売上を上げていくために工夫したことはありますか?
RPAは導入にコストがかかるため、当時は大企業ではないとなかなか検討が難しかったんですね。でも起業当初は大企業とのツテも全くなかったため、『大企業の担当者とつながる』という明確な目的を持ってwebマーケティング施策を始めました。具体的には、大手企業の担当者に向けたホワイトペーパーの作成やウェビナーの開催です。私自身も「お客様が本当に欲しい情報は何か」ということに常にアンテナを貼っていましたが、ある時一つのホワイトペーパーで5,000件ものリードを獲得することができました。このような試行錯誤を経て、初めて大企業から発注を頂いたのは起業から半年経った頃でした。
M&Aに踏み切ったきっかけとM&A先の企業の選定ポイントは
ー事業が順調に成長する中、起業から4年でM&Aに踏み切った理由を教えてください

起業から4年ほどひたすらRPAの情報を発信したり、人材や教育にも事業範囲を広げて頑張っていたのですが、その最中にコロナ禍になってしまいました。外出禁止の期間がありしばらく家にこもっていたら、お恥ずかしながらそれまでのモチベーションがすっかり消えてしまったのです。そこでまた、起業時にもアドバイスを頂いたエンジェル投資家の方に相談したところ「それならM&Aを考えても良いのでは?」とアドバイスを頂いたのがM&Aを考えたきっかけです。そうか、そういう道もあるのかと思った途端、またやる気が復活しまして。そこからは様々なM&Aのサイトに登録したり、色々な専門家に会ったりするのと同時に、プレスリリースで情報を発信したりするなどして企業価値を最大化することに努めました。
ーM&A先の決定のポイントは?
売却(M&A)先は最終的にクラウドワークス含め3社で検討していました。クラウドワークスに売却(M&A)した理由は、人材会社特有の明るさがあるなど感覚が似た人が多く、M&A後がイメージしやすかったからです。私自身も人材出身ですから。また、投資家の方から「今後も同じように起業してM&Aする場合、最初にどこに売却したかは非常に重要になる」というアドバイスを受けたのもクラウドワークスに決定した大きな理由です。
売却するに当たり社員の反応も気になっていましたが、売却先がクラウドワークスということで「クラウドワークスに登録している人材も使えるんですか?」など、前向きに捉えてくれ、とてもプラスに働いたと思います。そういう意味でも、M&A先をどこにするかはとても重要な決定ですね。
今だから分かる「ここは避けるべきではなかった」こと
ー様々な試行錯誤や、色々な方の助言を素直に実行して4年でのM&Aを実現されましたが、逆に「あの時はやらなかったけど、やるべきだったな」と思うことはありますか?
そうですね。私があえてやらなかったことは組織作りです。メディア経由で千人くらいのフリーランスエンジニアが登録してくれていたので、わざわざ採用しなくても何かあればそこから最適な人を選べると思っていました。また私自身、多くの社員を雇って組織を大きくするよりは身軽な経営を目指していたこともあり、組織作りなどもあえて行いませんでした。
ですが今になって振り返ると、役職者を置いたりしっかりと組織を作っていたら、もっと色々なことに挑戦できていたなと思いますね。
M&Aを経て現在目指しているものは?
ー現在の事業と今後のビジョンを教えてください。
Peaceful Morning株式会社の売却後は、好きなゴルフに専念したり、子供と過ごす時間を増やしたりしていましたが、現在はM&Aドットコムという会社を立ち上げてM&Aを希望してる経営者へのアドバイスなどを行っています。
以前は『起業家たるものIPOを目指すべき』という風潮があり、M&Aにはネガティブな印象があったのですが、昔に比べてIPO時の時価総額が下がっていることもあり、現在は起業家やVCもM&Aを選ぶケースが増えています。
しかし私自身が会社の売却を行った際、あまりの情報の非対称性、つまり「売る側」と「買う側」の情報量や経験値が違うことに驚いたんですね。買う側は何度もM&Aを行っているケースが一般的で知識も経験も豊富ですが、売り手側は初めての人も多く全く情報が足りません。
自ら立ち上げた事業を売却するというのは大きな決断です。悔いなく理想の売却が実現できるように、現在は売る側=セルサイドへの情報提供やサポート、M&Aの希望者を集めたランチ会などを開いて情報交換などをしています。
今後は、起業家がM&Aを考える時に第一想起される会社を目指したいですね。
経営者として仕事をする上で譲れないもの

人に会う機会も多いので、「経営者にふさわしい」身だしなみや身につけるアイテムは気をつけています。身だしなみは特に清潔感を意識し、身につけるアイテムは意外と見られているので、起業家の方から見られても恥ずかしくないアイテムを選んでいます。
経営者に会う機会が増えると多くのかたがアメックスを利用していたことから、私自身も2024年からクレジットカードはアメックスに変更しました。
実際、アメックスのクレジットカードに変えてから、空港利用の際にラウンンジが利用できたり経費精算が簡単に行えるなど、単に信頼性が上がるといだけではない多くのメリットがありましたね。
また、カードの作りやすさや与信枠の大きさなども魅力的で、経営者に優しいカードでもあると思います。カードを出した時の見栄えや経営者としての信頼感を与えるだけではなく、経営者にとってありがたい機能が他にも様々ついていることから、アメックスビジネスカードを愛用しています。
フリサプ読者への本気アドバイス
ーそれでは最後に、フリサプを読んでいる起業家や個人事業主に向けて、事業を成功させるための本音のアドバイスをお願いします!
起業家や起業を目指す人に伝えたい一番大切なことは、「決めたことはやりきる」「続ける」ということです。戦略やビジネスプランを考えることは誰でもできます。しかしそれを実際に始めて、そしてやり続けるのは本当に難しいことです。難しく、誰にでもできることではないからこそ価値があります。
起業のプランがある人はまず一歩踏み出して、そして一歩踏み出した後は、試行錯誤を続けながらもしっかりと続けてください。そうしたら自ずと道が見えてくるはずです。
編集後記:フリサプ編集企画チーム
取材時間で頂いた60分が一瞬で過ぎ去ってしまうほど、非常に濃厚で有意義なインタビューでした。起業から4年で事業を売却させたのは異例とも言える成功なので、根掘り葉掘り聞いてしまいましたが、全てに大変真摯にご回答くださったのが印象的です。今回特に読者の皆様にお伝えしたいなと思ったのが、売却に至るまでの事業展開の仕方です。
藤澤様は最終的には複数の事業を展開されましたが、緻密に計画してスタートさせたわけではありません。「運営しているメディアの記事にエンジニアの登録フォームをつけてみたらたくさん登録があった→企業からの問い合わせも増えたのでマッチングをしてみた…」と、その時々のニーズや動きを見逃さず、柔軟に動いた結果だったそう。
しかしそれは行き当たりばったりだったわけではなく、起業時に知り合った「RPAの第一人者」の方からのアドバイスに沿った内容でもあったそう。最初は単なる自分一人のアイデアからの起業でも、それが大きく発展するためには、「いかにしてキーマンと出会えるか」「先輩方のアドバイスを愚直に実行し続けられるか」が重要なのだと実感したインタビューでした。
いつどこで、将来的にメンターになる人と出会えるのかは誰にも分かりません。だからこそ様々な場所に足を運び、アドバイスには素直に耳を傾けていきたいですね。
編集部:阿部知子
<藤澤專之介様 PROFILE>

1986年生まれ、神奈川県横浜市出身。2009年、学習院大学経済学部経営学科卒業。繊維メーカーで経理を担当後、創業直後の人材会社に転職。その後、新規事業開発などを経験し、2018年にRPA専門のPeaceful Morning株式会社を創業。2022年に同社をクラウドワークスへ売却(M&A)した経験を持つ。2024年4月に2度目の起業としてM&Aドットコム株式会社を創業。現在は、M&A(会社売却)を検討する経営者向けのアドバイザリーサービスを提供。
執筆者名フリサプ編集企画チーム
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム