個人と同じ権利を認められている法人には、さまざまな種類があります。法人の種類について知ると、起業する際に適切な種類を選べるようになるでしょう。
「法人について簡単に説明してほしい」
「どの法人の種類で起業すればいいか知りたい」
このような方向けに、この記事では法人の種類をわかりやすく解説していきます。
個人事業主との違いや設立のメリット、種類ごとの手続き方法についてもご紹介しますので、ぜひご一読ください。
法人とは
法人とは、民法によって個人(自然人)と同じ権利義務が認められている組織です。法人は法律によって権利を持ち、個人は生まれながらに権利を持ちます。
つまり法人は、1人の人間のように物の売買や契約などをできる人格を認められているということになります。
法人には株式会社・合同会社などさまざまな種類があり、それぞれ設立方法が異なります。
個人事業主との違い
個人事業主は、株式会社などの法人を設立せずに、個人で事業を行う人のことを言います。法人は事業を円滑に進めるための資本金が必要ですが、個人事業主は必要ありません。
また設立手続きは個人事業主のほうが簡単で、開業届を提出するだけです。手続き費用も発生しません。一方法人は、会社運営のルールをまとめた定款の作成や、法人登記などさまざまな手続きが発生します。設立手続きの費用も法人には発生します。
法人と個人事業主は、税金の種類や計算方法が異なります。個人事業主は個人所得、法人は利益が課税対象となり、それぞれ税率が異なるというのが大きな違いです。
法人の種類
※法人を一覧で比較
法人には大きく分けて「私法人」と「公法人」の2種類があります。それぞれの種類について、以下で詳しく解説していきます。
私法人
私法人は、私的な社会活動を行う法人です。起業する際は、基本的には私法人を設立することになるでしょう。
また私法人は「営利法人」と「非営利法人」の2つに分けられます。
営利法人
経済的な利益を得るのが、営利法人の主な目的です。一般的な「会社」とは、この営利法人のことを指します。営利法人には株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つが該当します。
令和3年の国税庁の調査によると、株式会社が全体の9割以上を占めています。株式会社は、株式を発行して資金を調達し、株主が有限責任を負う法人です。取締役が経営し、経営と所有が分離されているのが特徴です。
非営利法人
社会貢献をはじめとする目的を達成するために存在するのが、非営利法人です。事業で得た利益は団体の目的を達成するために使われ、構成員への配分は行われません。
非営利法人の例としてNPO法人・医療法人・一般財団法人などが挙げられます。
営利法人は利益追求を目的とし、利益を出資者に分配します。非営利法人は公益的活動を目的とし、利益を分配せず活動に再投資するという違いがあります。
公法人
公法人は国や地方公共団体などの公的機関が設立する法人で、公共の利益を目的とします。
公法人は、都道府県や市町村で行政を行う機関である地方公共団体、国の一部の事業・事務を行う法人である独立行政法人が該当します。国立公文書館や造幣局なども含まれます。
公法人は業務内容が法律で規定されているのが特徴です。
法人の7形態と設立方法
法人には主に、以下の7形態があります。
【営利法人】
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
【非営利法人】
- NPO法人
- 一般社団法人
- 一般財団法人
これら形態の特徴と、設立方法をそれぞれ解説していきます。
株式会社
株式会社は、株式を発行することで資金を集める営利法人で、日本で最も多い形態です。株式を持つ出資者と、取締役などの経営者が別になっているのが特徴です。独立した法的権利や義務を持つことから、社会的な信用を得やすいと言えます。
株式会社は、次のような流れで設立します。
- ①会社の基本事項の決定
- ②定款の作成
- ③公証役場での定款の認証
- ④登記のための必要書類の作成
- ⑤設立登記
合同会社
2006年から導入された合同会社は、有限責任社員である出資者全員が経営に携わります。株式会社よりも設立の手続きが簡単なので、株式会社についで設立数が多い形態です。
株式会社とは異なり、公証役場での定款認証を必要とせず、最短1週間とスピーディに設立できるでしょう。合同会社では出資者を「社員(有限責任社員)」と呼び、限定的な範囲で会社の負債を負うことになります。
合同会社は、以下の手順で設立します。
- ①会社の基本事項の決定
- ②定款の作成
- ③登記のための必要書類の作成
- ④設立登記
合名会社
合名会社は、無限責任の社員のみで構成されます。会社の全責任を社員が追うことになるので、万が一会社に負債が発生した場合には、個人的な貯金を使ってでも返済する必要があります。
合名会社は、以下の流れで設立できます。
- ①会社の基本事項の決定
- ②出資金の準備
- ③損益の分配割合の決定
- ④業務執行社員・代表社員の選任
- ⑤定款の作成
- ⑥登記申請
合資会社
無限責任社員と有限責任社員の各1名以上で構成されるのが合資会社です。したがって、他の営利法人とは異なり、1人での設立はできません。
合資会社の設立方法は、合名会社と同じです。
NPO法人(特定非営利活動法人)
非営利法人であるNPO法人は、公益の増進を図ることを目的とした民間の法人である「公益法人」に該当し、利益を目的とせず、収入を再投資するのが特徴です。
規定されている20項目(「社会教育の推進を図る活動」「まちづくりの推進を図る活動」など)の活動内容に1つでも該当していれば設立できます。
ただし、設立時に10人以上の社員が必要なことに加え、申請受理後も設立時に提出した書類の一部を2か月間公開しなければなりません。公開内容を一般市民にチェックしてもらう必要があるなど、非常に時間がかかります。
NPO法人は以下の流れで設立できます。
- ①NPO法人の概要の決定
- ②申請書類の作成
- ③所轄官庁への設立認証の申請
- ④申請書類の閲覧期間(約2か月)
- ⑤申請書類の審査(約2か月)
- ⑥設立認証の決定
- ⑦設立登記の申請
- ⑧所轄官庁への設立登記完了届出書の提出
一般社団法人
非営利法人である一般社団法人は、共通の目的を持った2名以上の社員がいれば設立できますが、社員による社員総会のほかに理事を置くことが必須です。
資本金制度はないものの、定款の認証や法人登記などは必要です。
以下の流れで、一般社団法人を設立できます。
- ①定款の作成
- ②公証人役場での定款の認証
- ③設立書類の作成
- ④設立登記の申請
一般財団法人
特定の目的で集められた財産の管理・運用を行うのが一般財団法人です。人ではなく「財産」に対して法人格が与えられるのが特徴です。
設立者が300万円以上の財産を拠出し、最低でも3名の理事、3名の評議員、1名の監事と合計7名が必要です。
一般財団法人は、以下の流れで設立できます。
- ①定款の作成
- ②公証役場での定款の認証
- ③財産の拠出
- ④評議員・理事・監事の選任
- ⑤理事・監事による設立手続きの調査
- ⑥法務局での設立登記申請
個人事業主が法人を設立するメリット
個人事業主が法人を設立することには、以下のようなメリットがあります。
- 社会的な信用が得られる
- 節税できる
- 赤字を繰り越しできる
- 決算月を自由に決められる
社会的な信用が得られる
法人のほうが、個人事業主よりも社会的な信用を得やすいです。たとえば銀行から融資を受けたい場合、法人は希望が通りやすいことが多いですが、これは財産管理が徹底されているためです。
とくに大手企業と取引をする場合は、法人のほうが信用されやすい傾向にあります。
節税できる
個人事業主の所得税は累進課税なので、所得が多くなると最大45%まで税率が上がります。しかし法人税は最大でも23.4%(※2024年11月時点)のため、年間800~900万円を超える収入がある場合は法人のほうが税金が安くなる可能性が高いです。
ただし、詳しい内容は税理士に相談するなどして、法人化のタイミングを見極めることをおすすめします。
赤字を繰り越しできる
個人事業主は3年の繰り越しまでですが、法人なら10年間赤字を繰り越せます。繰り越した赤字は黒字の年に相殺できるので、黒字が出た年に発生する税金の負担を減らせます。
会社設立後しばらくは黒字が見込めない場合や業績が安定しない場合は、法人のメリットが大きくなります。
決算月を自由に決められる
決算月を自由に決められるのも、法人のメリットです。個人事業主の場合は、税法により決算は12月と決まっています。よって毎年1月1日~12月31日までの期間で会計を行う必要があり、年度末に決算書類を作成しなくてはなりません。
一方、法人は決算時期を自由に設定できるので、たとえば仕事の繁忙期と決算事務の時期が重ならないようにして、特定の時期に業務の負担が増えることを防げます。
法人を設立する際の注意点
法人を設立する際には、以下のような注意点があります。
- 維持費がかかる
- 登記に手間と費用がかかる
- プライベートの預金と事業資金の区別が必要
- 将来を視野に入れて事業内容を決める必要がある
維持費がかかる
個人事業主と比べると、法人は維持費がかかります。たとえば法人住民税は、決算が赤字であっても納めなければなりません。個人事業主の場合は、事業収入から経費を引いた事業所得が国税庁の定める要件を満たしていれば、住民税は発生しません。
また法人は税務・会計処理が複雑なので、税理士との顧問契約が必要になるケースが多いです。
登記に手間と費用がかかる
会社設立登記は、準備も含めると最短でも2週間かかります。また提出書類も多いので、設立期間を長めに考えておくのがおすすめです。
また法人設立には費用もかかります。株式会社で22万円以上、合同会社で10万円以上の費用がかかるでしょう。さらに資本金の準備や実印作成費などが発生するため、資金調達を適切に行うことが必要です。
なお、法人は解散時にも手続きがあり、数万円の費用が発生するので覚えておきましょう。
プライベートの預金と事業資金の区別が必要
代表者1人のみの会社であっても、プライベートの預金と、事業資金の区別が必要です。事業資金と預金を一緒にしてしまうと、取引先からの信用を得にくく、融資を受けられないかもしれません。事業資金は法人口座で扱うことが大切です。
将来を視野に入れて事業内容を決める必要がある
法人は、基本的に定款に書かれている事業内容以外の事業を行うことはできません。そのため、将来行うであろう事業内容も定款に記載するようにしましょう。
事業内容を追加する場合は登記事項の変更が必要となるため、変更費用がかかります。
法人の種類は変更できる?組織変更のメリットや注意点
設立後に法人の種類を変える「組織変更」をすることは可能です。具体的には合同会社から株式会社、株式会社から合同会社の変更が可能です。
合同会社から株式会社へ組織変更するメリット・注意点
合同会社から株式会社への組織変更にはメリットがありますが、気をつけるべきポイントもあります。
- 社会的な信用を得やすくなる
- 資金調達がしやすくなる
- 費用と事務の負担が発生する
社会的な信用を得やすくなる
株式会社は知名度が高いため、合同会社よりも信用されやすいメリットがあります。取引先を見つけやすくなる傾向にあり、ビジネス上有利に働くでしょう。
資金調達がしやすくなる
株式会社は株を発行できるため、資金調達がしやすくなります。業績が伸びれば、証券取引所で株式を売買できる上場も夢ではなく、より多くの投資家から資金調達できるようになるでしょう。
また社会的信用がある株式会社は、金融機関からの融資も受けやすいです。
費用と事務の負担が発生する
株式会社では、株主総会や取締役が必須機関となっています。これらの手続きに費用と事務の負担が発生するでしょう。
株式会社から合同会社へ組織変更するメリット・注意点
株式会社から合同会社へ組織変更することには、次のようなメリットや注意点があります。
- 意思決定がスムーズになる
- 利益を分配しやすくなる
- 維持費が減る
- 社会的な信用を得にくくなる
意思決定がスムーズになる
合同会社は株主総会や取締役を設置する必要がありません。そのため意思決定がスムーズになります。合同会社では社員全員の一致、または定款への記載があれば過半数の決議で意思決定できます。
ただし社員同士の意見が対立した場合は、意思決定が複雑になることには注意が必要でしょう。このような場合に備えて、あらかじめ定款に対処法を記載しておくことをおすすめします。
利益を分配しやすくなる
株式会社では、一株の価値が平等なため、株数に応じた配当が行われます。
一方で、合同会社は、出資の割合によって利益が配分されます。定款に記載することで出資比率とは無関係に利益を分配することができるなど、自由度が高いと言えます。
維持費が減る
合同会社は、株式会社よりも維持費が少ないです。たとえば株式会社では、役員の任期が終わるごとに、重任登記の登録免許税が必要になるなど、費用が発生することがありますが、合同会社ではそのようなことはありません。
社会的な信用を得にくくなる
合同会社は比較的新しい形態であることから、株式会社よりも社会的信用や経営の透明性が低くなることがあります。他企業との取引が難しくなったり、従業員を集めにくくなったりするケースがあります。
また、株式を発行できないため、資金調達が難しくなります。上場することもできません。
まとめ:法人の種類別特徴を知って設立をスムーズに
民法によって個人と同じ人格を認められているのが法人です。法人を設立せずに、個人で事業を行うのが個人事業主ですが、法人化すると社会的な信用が得られて、節税にもつながるのが大きなメリットと言えるでしょう。
法人には「私法人」と「公法人」の2種類があり、さらに私法人は営利法人と非営利法人に分かれますが、それぞれの形態にある特徴や設立方法は異なるため、設立前に十分な検討が必要です。
「世の中を良くしたい」「自分のチームを作って仕事をしたい」「社会的に成功したい」という方は、ぜひこの記事を参考に法人設立にチャレンジしてみてください。
執筆者名Ruben
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム