「リスキリング」は、新しい仕事や業務に必要なスキルの変化に伴い新たなスキルを習得することです。
AIやインターネットなど情報技術の急速な進歩に伴い、ビジネスシーンの大きな変化は避けられません。そのため多くの企業は、従来のビジネスモデルでは現状に対応できなくなりつつあります。
そこで注目されているのがリスキリングです。大手転職サイトが実施した調査では、95%のビジネスパーソンが「リスキリングの必要性を感じている」と回答しています。また企業の経営層や採用担当者の多くがすでにリスキリングに取り組んでおり、今後益々リスキリングの重要性が増してくることが予想されます。
この記事では、リスキリングとは何かについて詳しく解説していきます。リスキリングの必要性やメリット、取り組む際のポイントなどについてもご紹介していますので、ぜひご一読ください。
リスキリングとは
リスキリングとは、仕事で今後必要になる新たなスキル・知識を習得するために、従業員を再教育することを言います。特にデジタル関連の業務においてリスキリングが重要視されています。
人間の代わりのコンピューター・ロボット・AIが業務を行うことが増えてきており、これらのテクノロジーを管理したり、プログラム自体を設計したりする人材の育成が急務となっています。
そこで必要なのがリスキリングです。
リスキリングが注目されている理由
インターネットが普及していなかった時代とは異なり、世界中への情報伝達スピードが加速しています。
そのような社会の中で必要性が増しているのがリスキリングです。各国の首脳や大企業のトップなどが集まって開催されるダボス会議(2020年)でも、2030年までに10億人をリスキリングすることが発表されています。
リスキリングは次のような理由で注目されています。
- DXが浸透しつつある
- 働き方が変化した
DXが浸透しつつある
リスキリングが注目されている背景には、DX(デジタルトランスフォーメーション)が関わっています。DXは企業がデジタル化を進め、業務プロセス改善やビジネスモデルを変革することで競争性優位を獲得する取り組みです。
情報処理推進機構(IPA)発表の「DX動向2024」によると、「全社的に取り組んでいる」と回答した企業は約4割となっています。今後のビジネスにおいてより一層DXが進められることを考えると、従業員は新たなスキルを身に付ける必要があるでしょう。
例えば製造業では、ロボットが人間の代わりに製造を行うケースがさらに増えると言われています。その場合、人間が行うのはロボット管理の仕事です。
これまで製造に携わっていた人間は、ロボットのプログラミング、社内システムの管理といった新たなスキルを身に付けるリスキリングが必要です。
働き方が変化した
2020年から始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、多くの人たちの働き方が変化しました。
会社員の通勤が自宅でのテレワークに、顧客や取引先とのやり取りが対面からオンラインに変わるなど、ビジネスのやり方が大きく変化しました。
このような環境の変化に対応するためにも、リスキリングの重要性が増しているのです。
リスキリングとリカレント教育、生涯学習、アンラーニングとの違い
リスキリングと似た意味の言葉に「リカレント教育」「生涯学習」「アンラーニング」があります。リスキリングとこれらの言葉との違いを、以下で解説します。
リカレント教育
リカレント(recurrent)とは、英語で「循環する」「繰り返す」という意味です。適切なタイミングで教育を受け、それを仕事に活かす流れを長期的に繰り返すのがリカレントです。
一般的には、仕事をしながら大学・専門学校・資格取得講座などの教育機関に通って学ぶことを言います。退職・休職をし、リカレント教育を行うケースも多いでしょう。企業の戦略として活用されるリスキリングとは異なり、リカレントは個人が学ぶことに重点がおかれているのが特徴です。
終身雇用制度が減りつつある現代では、スキルアップ・キャリアアップのためにリカレント教育を受け、将来のキャリアを開拓していくことが求められています。
生涯学習
生涯学習は、個人の人生を豊かにするための学びで、「一生学び続ける」という意味も含まれています。趣味やボランティアに近い学び方と言ってよいでしょう。
一方、リスキリングは仕事のためにスキル・知識を習得することを表すため、プライベートを豊かにするための生涯学習とは異なります。また、リスキリングは学ぶ期間も短く、一般的にはDXへの対応に特化しているのが特徴です。
アンラーニング
アンラーニング(学習棄却)とは、これまでの仕事への考え方やルーティンを改め、新しいやり方を取り入れることを言います。
ビジネスシーンが激しく変化する現代は、従来の方法では上手くいかないことも増えています。急速な変化に対応するため、既存の方法論を変更する必要があるのです。
アンラーニングもリスキリングに似た言葉ですが、アンラーニングは過去に得た知識や価値観を振り返ることであるのに対し、リスキリングは新たなスキルを身に付けることである点が異なります。
リスキリングを企業が行うメリット
企業がリスキリングを行うと、以下のようなメリットが得られます。
- 人材不足を解消できる
- 業務の生産性が向上する
- 従業員同士のつながりができる
- 自立型人材が増える
人材不足を解消できる
リスキリングにより、企業の人材不足を解消できます。特に情報通信業や運送業、福祉業などは、人材不足が深刻です。
このような業界でもリスキリングは有効です。新たな人材を採用するのではなく、企業内の人材を活用して人手不足に対応することができます。
スキル・知識を持つ人材を外部から採用することも可能ですが、その場合は組織に慣れるまで時間がかかってしまうでしょう。また新たな人材が大量に増えると、企業内の雰囲気が変わってしまうことが考えられます。リスキリングなら、企業文化を維持することが可能です。
業務の生産性が向上する
リスキリングにより、これまで人間が手作業していた業務をデジタル化できると、工数を削減できます。削減した労力を他の業務に費やせるようになるので、生産性が向上するでしょう。
従業員同士のつながりができる
リスキリングにより従業員に学びの機会が増えると、企業と従業員のつながり(エンゲージメント)が強くなります。
人材の流出を防ぎ、コミュニケーションも活発になるため、従業員の生産性が向上します。リスキリングは、企業の業績向上にも役立つでしょう。
自立型人材が増える
リスキリングにより、自発的に考える「自律型人材」が増えます。積極的に新しいスキル・知識を学ぶ従業員が増え、企業全体がビジネスシーンの変化に対応しやすくなります。
リスキリング導入の流れ
リスキリングは、どのようなステップで進めるのがよいのでしょうか。ここではリスキリング導入の流れをご紹介していきます。
①戦略を基に必要な人材やスキルを設定する
②従業員に現状を把握してもらう
③教育プログラムを決める
④業務で実践する
①戦略を基に必要な人材やスキルを設定する
まずは経営戦略や事業戦略を基に、必要な人材やスキルを設定します。現状の課題を把握すると、おのずと必要な人材やスキルが見えてくるでしょう。具体的に設定すると、その後の工程がスムーズに進みます。
②従業員に現状を把握してもらう
次に、従業員に自身の現状を把握してもらわなくてはなりません。目標と現状とのギャップはどのくらいで、そのギャップを埋めるにはどのようなスキルを身に付ければ良いのか、丁寧に伝えましょう。
③教育プログラムを決める
このステップで、従業員をどのように教育するか決めます。企業内外の研修、オンライン講座、従業員同士の勉強会など、さまざまな方法が考えられます。
複数の学習方法を用意すると、それぞれの従業員が自分に合った方法で効率的に学習することができるでしょう。従業員のスキルをデータ化し、習熟度を測るのもおすすめです。
④業務で実践する
教育プログラムで学んだことを、実際の業務に活かす段階です。実践することでスキル・知識をさらに強化できます。実践後は業務を振り返り、問題点の解決策を考えることも大切です。
また解決策を従業員同士で共有すると、社内全体の改善にもつながるでしょう。
リスキリングに取り組む際のポイントや注意点
企業がリスキリングに取り組む際には、以下のことに気をつけなければなりません。
- リスキリングを継続しやすい環境を作る
- 従業員の自主性を尊重する
- 既存業務に充てる時間を確保する
- 社外リソースを活用する
- 学習意欲を維持することが難しい
- 費用がかかる
リスキリングを継続しやすい環境を作る
従業員に協力してもらい、リスキリングを継続しやすい環境を作ることが大切です。事前にしっかりと説明を行い、リスキリング対象者に協力してもらう雰囲気を作りましょう。
また、リスキリングを受けた従業員に報酬や評価を与えたり、業務時間内に学習できるようにしたりすると、理解を得やすくなります。従業員にリスキリングを認知してもらうように工夫しましょう。
従業員の自主性を尊重する
従業員の自主性を尊重しながら、リスキリングを進める必要があります。強制的に学習させようとすると、精神的な負担を与えてしまい、リスキリングが上手くいかなくなる恐れがあります。
従業員のキャリアプランに合うように、慎重に教育プログラムを設定する必要があるでしょう。
既存業務に充てる時間を確保する
就業時間内にリスキリングを行うことが推奨されるため、その分既存の業務に充てる時間が減ることになります。しかし、既存業務の時間を確保するための残業が増えると、従業員のモチベーションは低下してしまうでしょう。
既存業務の効率化を行いながらリスキリングの時間を確保するにはどうしたらよいのか、事前に対策が必要です。
社外リソースを活用する
リスキリングを円滑に行うために、社外リソースの活用も検討しましょう。既存の研修プログラムだけでなく、外部のサービスやコンサルティング導入が必要かもしれません。
社外の教育プログラムを活用するとプログラムの質が高いことから、時間の節約になります。特にDXに関わるようなデジタルスキルは、多くの企業で共通点が多いため、社外リソースを活用しやすいでしょう。
学習意欲を維持することが難しい
新たなことを学ぶ従業員は、負担に感じるかもしれません。一人ひとり習熟度に差が出ることが考えられ、習熟が遅れている従業員のモチベーション低下が深刻化することもあるでしょう。
学んだことをすぐに活かせる業務を用意し、モチベーション低下を防ぐ必要があります。
費用がかかる
リスキリングを行うには、費用がかかります。一般的に、従業員1人あたり1~10万円ほどの費用が発生すると言われています。
大手新聞社が行った調査によると、76%のビジネスパーソンが、「リスキリング費用の個人負担があった」と回答しています。勤務先が費用負担するケースが43%あったものの、企業によってリスキリング費用を負担するかどうか対応が分かれているようです。
特に中小企業は個人の負担が増えやすい傾向にあります。リスキリングを継続していくためには、費用面についての検討も必要です。特定の条件を満たすと、国や地方自治体の補助金を利用できることがあるため、うまく活用していきましょう。
リスキリングで学ぶのにおすすめのスキル
リスキリングでは、具体的に何を学ぶのが良いのでしょうか。
人材育成・マネジメントなどに関わる調査機関によると、企業側は「IT・デジタルリテラシー・スキル」「ロジカルシンキング」「マーケティングスキル」を従業員に学んでほしいと考えています。
特にIT・デジタル系のスキルは重要視されており、リスキリングの最も大きな目的と言えるでしょう。以下では年代別に、リスキリングにおすすめのスキルをご紹介していきます。
20代はオフィス系アプリやプレゼンテーション
20代は、ExcelやWordなどオフィス系アプリの使い方に慣れておくと良いでしょう。多くの会社でこれらのアプリを使っているため、基本的な操作方法は身に付けておく必要があります。
またプレゼンテーションスキルも、多くの仕事で使います。自社製品・サービスの魅力を簡潔かつ効果的に伝えるために活用できます。プレゼンテーションスキルを早い時期に身に付けておくと、活用の機会が多くなるでしょう。
30代はプログラミングやデジタルマーケティング
プログラミングができる人材は需要が高いので、身に付けると多くの企業や業務で活用できます。例えばプログラミング言語であるPythonを習得すると、ExcelやAccessなどのデータ分析が行えます。
また、インターネットやSNSを活用したデジタルマーケティングも、多くの企業や業務で求められます。
検索エンジンに最適化するSEOやSNSの運用により売り上げがアップすると、企業から求められる人材になれるでしょう。
40代はプロジェクトマネジメント
プロジェクトを適切に運営するには、プロジェクトマネジメントスキルが必要です。プロジェクトの計画やスケジュール管理を行い、プロジェクトを成功へと導いていきます。
外部とのコミュニケーションが必要となるプロジェクトマネジメントは、仕事経験が豊富な40代以上の方に適していると言えるでしょう。
もちろん40代でも、プログラミングや動画編集のスキルを使う機会はあるので、これらを身に付けるのもおすすめです。
リスキリングのまとめ
リスキリングを行うと、仕事に必要なスキルの変化に対応できます。変化の激しい現代のビジネスシーンにおいて、リスキリングなしに業務を遂行するのは難しくなるでしょう。
リカレント教育やアンラーニングなどとは異なり、リスキリングは、企業の従業員が仕事のためのスキル・知識を習得することを指します。企業がリスキリングを行うと、人材不足を解消でき、生産性が向上します。
リスキリングを成功させるには適切な戦略を立て、現状の課題に対してアプローチできる教育プログラムを実践することが大切です。
ただし、リスキリングを行うには継続しやすい環境を整え、既存業務に充てる時間を確保する必要があるという点には注意しましょう。
それぞれの企業によって課題は異なります。ビジネスの可能性を広げるため、注意深く学習プログラムを準備してリスキリングを導入していきましょう。
執筆者名Ruben
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム