フリーランス新法が与える影響について~野村佳祐弁護士にインタビュー
2024年11月1日に施行された「フリーランス新法」。フリサプでは、さっそく弁護士にこの新しい法律が与える影響について伺いました。
お答えいただくのは、Authense法律事務所所属の企業法務を得意とする野村佳祐弁護士です。
フリーランス新法とは?
-従来の下請法と異なる点はあるのでしょうか?また、法律違反となった場合の罰則などはありますか?
下請法は、親事業者と下請事業者それぞれについて資本金いくら以上という要件がありますが、フリーランス新法についてはそれがありません。一切資本金関係の要件はなく、純粋に発注する事業者、会社からフリーランスあるいは個人事業主、実質的な個人事業主に近い一人会社のような一人法人も含まれます。
これまでの法制では拾いきれなかった部分を保護の対象にしようというのが、具体化した法制であると言えるでしょう。
もう1点、罰則などがあるのかどうかですが、罰則もあります。まずは当局となる公正取引委員会又は厚生労働大臣からの勧告指導になりますね。
フリーランス新法に違反する行為が見受けられた事業者に対し、最初は当局から「是正しなさい」という指導や助言が入ります。それでもなお、繰り返し違反があり、改善が見られない場合には、勧告や当局からの命令という形で行政処分がなされるという可能性があるでしょう。
さらに、刑事罰的な部分もあります。当局からの命令への違反行為をした場合に50万円以下の罰金というのがその代表です。
参考:公正取引委員会フリーランス法特設サイト|公正取引委員会
フリーランス新法がフリーランスに与える影響
-フリーランス新法が与える影響についてのお考えをお聞かせください。
大きな方向性としては、フリーランスの取り引きに関して、これまで見えるところ、見えないところで生じていたトラブルが、今後は予防あるいは減少するであろうと思います。
今回法令で発注事業者に対して「こういうふうにしなさい」とか「こういうことはしてはダメです」ということが明確に規定されたため、それをもとにトラブルの予防や減少につながると考えられます。
下請法と同じような観点で、発注者側に対して「働き手であるフリーランスの人たちが、不利益を被らないように対策してください」というのが大きな特徴ですね。
フリーランス新法が浸透するためには
-フリーランス新法を今後多くのフリーランスや雇う側の企業に浸透させる方法について教えてください。
法令の内容は、厚労省や厚生取引委員会のウェブサイトなどに、わかりやすいようにさまざまな資料が掲載されていますが、フリーランスや企業担当者がそのような資料を見ても、すぐには理解しにくい実態があるのではないでしょうか。
これまでもフリーランス新法制定前の背景の一つとなる、いわゆる「フリーランストラブル110番」というものがありました。これは、厚生労働省が弁護士会に委託し、フリーランスの方が「発注者側からこういうことをされて困ってるんです」といった相談ができる窓口です。
ここで相談が寄せられた内容の中でも、報酬が支払われないなど報酬関連が一番多いですね。
そこで、フリーランスとして関心が高いと思われる報酬支払いについての部分に加え、自分にどのような業務が委託されているのかについて、しっかり書面を取り交わすことが大切になります。
書面を交わさずに口頭だけでやり取りされ、なんとなく双方の認識が食い違ったまま案件が進むと、成果物を出した際、あるいは報酬支払い時に「話と違う」というような、ボタンの掛け違いが起きてしまうでしょう。
こうしたことが原因となるトラブルに関した相談が多いことがわかりました。
フリーランス新法を細かく読むと、多岐にわたるさまざまなことが書いてあります。各所で解説されてはいますが、フリーランスの方が一番見るべきところとしては、ご自身が締結される契約の中身です。
とくに個々の取引を行うにあたって、どのような業務が自分に委託されているのかと報酬が支払われるタイミングという2点が明確かどうかというのを確認することが大切です。
成果物あるいは稼働報告を出した際、どのような検査基準で確認がされ、どのような条件が満たされたら報酬の支払いが行われるのか、委託業務の内容と報酬の支払い条件が明確になっているかをしっかり見ていくのが大事だと思います。
準委任契約なのか、請負契約なのかも大事ですが、契約形態よりもむしろ、自分は何を頼まれているのかをきちんと明確にし、疑問点なく納得していただく必要があるでしょう。
企業が発注書を作る段階では、業務内容を明確に書けないようなケースもあり得るでしょうから、仕方ない部分もあります。しかし、たとえば「~の支援業務」という形で書かれていた場合、フリーランスの側では「支援って具体的には何だろう」という疑問が生まれるかもしれません。
発注段階では、今後具体的にどのようなタスクが発生してくるか、見通しが立てにくいこともあるため、そういった場合には、一旦先ほど述べたような形で記載するでしょう。ただ、その案件が進む中で、徐々に「こういったことを今後お願いしたい」と具体化していき、都度都度話し合い、協議をして、確認・合意していくことが大事になります。
フリーランスの今後の見通し
-フリーランス新法を受け、今後フリーランス市場はどうなっていくとお考えでしょう?
今回の新法の施行を経て、フリーランス市場というのはおそらくさらに拡大していくでしょう。
このフリーランス新法においては、フリーランスの方が保護の対象ではある一方、事業者として定義されているという面があります。そのため、発注者側では契約書のひな形を整備するなどが進められ、書面を整えようという動きが進んでいくでしょう。これに比例して、報酬をめぐるトラブルは減っていくだろうと思われます。
ただ、トラブルは減るものの、一方で、フリーランスの方の意識レベルが上がることが考えられます。やりとりの中で納得いかない時に「フリーランス新法に照らし合わせた場合はどうなんだろう」と、発注者側あるいは弁護士などの第三者機関への相談が増えていく可能性はあると思います。
トラブルとまでは言わないけれども、フリーランスと発注者側がきちんと契約内容に関して協議を深めるなど、場合によっては熱の入ったディスカッションになるかもしれないです。
これまで発注者側は「これでいきましょう」と一方的に発注し、フリーランスも「ここしか取引先がないから言われたとおりにやろう」とあまり意見を言えずに進んでいたかもしれません。今後は、議論が活発化した状態で案件が進んでいくのでは、という気がします。
フリーランスへ応援のひと言
-最後にクラウドワークスのフリサプ読者に向け、応援コメントをお願いします。
フリーランス新法が制定され、今後フリーランス市場は改善していくと考えられます。同時に、やはり企業側もフリーランスの方にお願いしたいというニーズがあることは間違いないと思います。ですので、今後案件は増えていくのではないでしょうか。
フリーランス新法などにより、フリーランスの方が以前より活躍しやすくなる環境が整えられていますので、ご自身の能力をいかんなく発揮していただきたいです。
加えて、発注者とフリーランスの双方が、納得をした上でお互い気持ちよく業務を進めるためにも、契約内容について、いわば自分もプロフェッショナルの一人であるというぐらいの意識を持って確認していただくことが重要になってくるものと思います。
野村佳祐弁護士(Authense法律事務所所属)
一橋大学法学部卒業、一橋大学法科大学院修了。
約2年半にわたり上場企業の法務部門に常駐し、投資案件を中心とした契約書の作成・レビューを数多く担当。
弁護士としての法的な視点のみならず、フロー全体を見据える現場目線も有し、円滑に業務を遂行する力量は常駐先企業からも高く評価された。現在は、複数の上場企業・成長企業で外部から法務をサポートしており、会社組織において日々生じる多種多様な法務課題の解決に注力している。
執筆者名CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム
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編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム