本記事では個人事業主と法人の違いについて解説します。これから起業を考えている方の参考になれば幸いです。
働き方改革の影響もあり、以前にも増して働き方については多様化しています。素晴らしいアイディアや商品を持っている方であれば、自ら起業を考える人も多いです。
起業という道を選んだ際に考えなくてはならないのが、個人事業主として活動するのか、会社を設立して法人と活動するのかです。
どちらも自分のアイディアや商品をお客様に提供していくと言った本質は変わらないものの、手続きや税法によって受ける影響などは大きく異なります。
個人事業主と法人の違いとは?
はじめに、個人事業主と法人の違いについて解説します。
個人事業主は「自己の計算において独立して事業を行う者」と税法上で定められており、雇用されている方ではなく、自身で商品やサービスを提供している人を指します。
法人とは、法律上の権利や義務を持つ組織体のことを指します。法人は個人とは独立した存在として認識され、法人として契約を締結したり、財産を所有したりすることができます。法人には、株式会社、合同会社、公益法人、NPO法人などがあります。
開業・設立方法の違い
次に、個人事業主と法人の開業・設立の際の手続きの違いについて解説します。個人事業主として開業するのは比較的簡単ですが、法人を設立する場合は様々な事前の手続きが必要です。
個人事業主の開業方法
個人事業主として開業する際の手続きは非常にシンプルです。納税地を所管する税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出することで手続きが完了します。
費用等も一切かからず、税務署の窓口へ提出する他、郵送、e-Taxを使用したオンライン手続きも可能です。
個人事業の開業・廃業等届出書の概要や提出期限、記載する事項については以下の通りです。実際の用紙については、国税庁の公式ホームページからダウンロードできます。
個人事業の開業・廃業等届出書 | |
概要 | 新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続きです。 |
手続対象者 | 新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方 |
提出時期 | 事業の開始等の事実があった日から1月以内に提出してください。なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。 |
添付書類 | e-Taxにより提出される場合は、本人確認書類の提示又は写しの添付は不要です。 ※書面によりマイナンバー(個人番号)を記載した申請書等を提出される際には、その都度、申請をする方の本人確認書類の提示又は写しの添付をお願いいたします。 |
記載事項(抜粋) | ・納税地・氏名・個人番号・屋号・届け出の区分・所得の種類・開業日 |
また、記載事項にある「屋号」は個人事業名のことで自由に設定が可能です。屋号を用意することで、取引先への信頼にも繋がりますので開業と合わせて用意しておくことをおすすめします。空欄で提出し、後日改めて設定するといったことも可能です。
法人の設立方法(株式会社)
法人の設立に関しては、個人事業主として開業をするよりも手続きに関しては複雑で、いくつかのステップを踏む必要があります。
また設立する会社の種類によっても手続き内容が異なります。本記事では「株式会社」を設立する際の手順についてご紹介します。
実際の手続きについては「法人設立ワンストップサービス」を活用することにより、オンライン上での手続きも可能です。
ステップ1:会社の基本となる情報を決定する
株式会社の設立を決めたら、会社設立に必要となる社名や会社設立日などの決定を行います。決定を行わなければならない事項については以下の通りです。
法人の基本情報の決定 商号* / 資本金の額 / 事業目的 / 決算期 / 本店所在地 / 発起人 / 設立時役員 /発行株式数 など *会社の登記については、既に登記されている他の会社と同一の「商号」であり、かつ、本店所在場所も同一である場合には、登記することができないとされている(商業登記法第27条)ため、会社の登記の申請をする前には、これを調査する必要があります。 引用:サービストップ | 法人設立ワンストップサービス |
ステップ2:代表者印(会社実印)を作成する
法務局へ会社設立の登記を行う際には、代表者印(会社実印)の捺印が求められます。会社の商号や代表者が確定次第、作成の手続きを進めましょう。
代表者印(会社実印)については、商業登記規則第九条の3により大きさが定められているため、ルールに沿って作成をすることが重要です。規定に沿っていない場合、法人設立の手続きを進めることができません。
印鑑の大きさは、辺の長さが一センチメートルの正方形に収まるもの又は辺の長さが三センチメートルの正方形に収まらないものであってはならない。 引用:e-Gov 法令検索 | 商業登記規則 |
また、2021年2月15日に法改正が行われ、冒頭で紹介したオンラインサービスで手続きを行う場合は代表者印(会社実印)の提出は任意となりました。書面で提出をするときのみ必要である点についても事前に把握しておきましょう。
ステップ3:定款を作成し、公証役場で承認を受ける
定款とは、会社の組織や運営に関する基本的なルールをまとめたものです。法人の設立を進める中でも重要な書類の一つで、主に3つの内容で構成されます。
①法律上必ず記載しないと定款が無効となるもの(絶対的記載事項、会社法27条)
②定款に記載しないと効力が生じないもの(相対的記載事項)
③記載するかしないか当事者に任されているもの(任意的記載事項)があります。
①の絶対的記載事項については、その名の通り必ず定款へ記載が必要とされ、会社法では下記の5つを定めています。
- 事業目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
引用:Q2. 株式会社の定款の記載事項について、どのようなものがありますか。 | 日本公証人連合会
定款自体には決まったフォーマットが存在しないため、書き方については自由ですが、絶対的記載事項について漏れがないようにご注意ください。初めて法人を設立する方向けに、定款の作成をサポートするソフトウェアなども販売されていますが、司法書士などの専門家に相談して進めることをおすすめします。
また提出の方法については、紙もしくは電子定款の2つから選択可能です。紙の定款で必要になる収入印紙代(4万円)が不要となるため、必要機器がすでに揃っている場合は電子定款を活用するのがおすすめです。
ステップ4:資本金の支払いを行う
次に発起人の銀行口座へ資本金の支払いを行います。
従来は株式会社の場合最低1,000万円が必要とされた資本金が、2006年5月に施行された新会社法により、1円からでも設立できるようになりました。
少ない資本で会社設立が可能となり、新規事業の創出が比較的容易となりました。
一方であまりに少ない資本金の場合、法人口座を開設できない、企業としての信用力が低くなるなどの問題が発生することがあるため、潤沢な運転資金をあらかじめ用意しておくことをおすすめします。
ステップ5:法務局で会社設立の登記を行う
ステップ1〜4を終えると、いよいよ手続きの最終段階に入ります。必要な書類を揃え、法務局へ登記を行うことで会社設立の手続きが完了します。
登記を行う際に必要な書類については以下の通りです。
- 株式会社設立登記申請書
- 定款
- 設立時代表取締役を選定したことを証する書面
- 設立時取締役、設立時代表取締役及び設立時監査役の就任承諾書
- 印鑑証明書
- 本人確認証明書
- 設立時取締役及び設立時監査役の調査報告書及びその附属書類
- 払込みを証する書面
- 資本金の額の計上に関する設立時代表取締役の証明書
提出した書類の内容等に不備がなければ通常10日前後で手続きが完了し、会社設立が実現します。
個人事業主として開業するメリット
個人事業主、法人それぞれの開業方法を理解したところで、どのようなメリットがあるか解説します。
税制上の優遇措置を受けることができる
一番の大きなメリットとして挙げられるのが、税制上の優遇です。開業届と合わせて「青色申告承認申請書」を提出することで、年間で最大65万円の所得控除を受けることが可能です。
控除を利用することにより課税所得を削減でき、確定申告の際に節税効果が期待できます。
青色申告を利用するためには、業務を開始した日から2か月以内に「青色申告承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。すでに事業を開始している場合は、青色申告をしようとする年の3月15日までが提出期限です。
また65万円の所得控除を利用するためには、e-Taxによる電子申告で確定申告を行う必要があります。書面での確定申告の場合の控除額は55万円となるためご注意ください。
課税される所得金額と税率については以下の通りです。副業などで所得を得ている人で、一定以上の収入が見込まれる場合は、青色申告を利用するために個人事業主として開業をされることをおすすめします。
個人事業主の開業に関しては、サラリーマンとして働いていても可能です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
累進課税制度を採用しているため、実際に納める税額の計算は以下のようになります。
例)課税される所得金額が7,000,000円の場合:7,000,000円×0.23 - 636,000円= 974,000円
開業に際して費用がかからない
個人事業主として開業する際は、個人事業の開業・廃業等届出書、青色申告承認申請書の作成・提出が必要ですが、一切費用はかからないのが大きなメリットです。
法人設立の場合は、様々な準備や収入印紙の購入、定款の認証手数料、登録免許税など合わせて約25万円程度が必要です。
また個人事業主が提出する書類についても、記載事項は多くないため、1時間程度で作成できます。
小規模に事業をスタートしたいと考えるのであれば、まずは個人事業主としての開業から始めていきましょう。
法人を設立する際のメリット
個人事業主として開業するメリットが理解できたところで、法人を設立する際のメリットについても合わせて解説します。
累進課税ではないため、法人税の負担が抑えられる
法人を設立した場合、売上から経費などを引いた課税所得に対して、法人税の支払いが求められます。個人事業主で言うところの所得税に該当する税金です。
個人事業主が支払う所得税については累進課税制度が設けられているため、課税所得が増えるごとに税金が高くなりますが、法人税に関しては15%もしくは23.2%と一定金額で定められています。
■資本金1億円以下の法人の場合
年800万円以下の部分 | 15% |
年800万円超の部分 | 23.2% |
そのため、事業規模が大きくなり課税所得が増えてくるようであれば法人設立の検討を行うのがおすすめです。税率の変わり目である、課税所得が800万円を超えるか超えないかを一つの目安としてください。
信用力が向上する
法人格を持つことで、社会的な信用が向上します。取引先や金融機関からの信頼が得やすくなるため、大口の取引や融資がスムーズになることが多いです。
特にB to B(企業間取引)では、取引相手が法人である方が信頼性を感じやすく、大規模なプロジェクトや契約を結ぶ場合もメリットを感じることができます。
また、法人の場合は経営者の変更や死亡があっても法律上存続するため、事業承継がしやすく、長期的な事業運営ができる点からも信頼を集めることができます。
優秀な人材を確保しやすくなる
人材不足の企業が増えている昨今、法人格を取得することは人材確保を有利に進められるというメリットがあります。
求職者は安定性やキャリアアップの場を職場に求めることが多く、個人事業主と比較すると法人はそれらの環境が整っていると評価されることが多いです。
実態が伴っていなければ離職などにつながりますが、人材獲得競争に打ち勝っていくためにも、法人格のメリットを活用することをおすすめします。
まとめ:個人事業主と法人には大きな違いがある
個人事業主と法人には開業・設立時の手続きや税制面などで大きな違いがあります。
それぞれの違いをまとめると以下の通りです。
個人事業主 | 法人 | |
開業・設立の手間 | 簡単 | 複数の書類の準備が必要 |
開業・設立の費用 | 無料 | 約25万円程度 |
資本金の有無 | なし | 1円以上 |
税制上のメリット | 青色申告による最大65万円の控除 | 最大で23.2%の定額課税 |
個人事業主と法人はどちらが良い・悪いかではなく、ビジネスの規模や目的に合わせて選択することが最も重要です。
適切な選択をすることで、税制上のメリットや事業規模の拡大を推し進めていくことができます。
個人事業主としての開業や法人としての登記の方法の詳細については、国税庁や法務局のサイトなども合わせてご確認をお願いします。
執筆者名CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム