屋号は、フリーランスや個人事業主の「顔」とも言えます。屋号を決めなければならないという義務はありませんが、ビジネスにおいて、信頼性や認知度を高める目的で屋号を活用できるでしょう。
そこで本記事では、屋号の意味や必要性、メリット、注意点まで詳しく解説します。初心者の方にもわかりやすく解説していますので、ぜひご一読ください。
フリーランス・個人事業主における屋号とは
屋号は、フリーランス・個人事業主が活動する際に使用する事業名です。企業における会社名に相当します。
屋号の歴史を調べると、江戸時代には、商人や職人などが自分たちを識別するために使用していたことがわかります。当時、武士以外の多くの人々は姓を持たなかったため、屋号が事業や家の目印となったのです。現在でも、歴史ある老舗店の屋号が引き継がれているケースがあり、その文化的な背景を感じられます。
現代の日本において、屋号の登録は必須ではありませんが、事業の認知度を高めたり、顧客や取引先からの信頼を得たりするには、屋号を設定しておくことが有効です。
フリーランスは、屋号を使うことで事業のプロフェッショナル感を演出することができるでしょう。
屋号が使える場面は?
屋号は以下のように、さまざまな場面で使えます。
- 開業届の提出
- 契約書や請求書の作成
- 事業用の銀行口座の開設
- 名刺やホームページの制作
フリーランスの場合、必ず名刺やホームページに屋号を載せないといけないわけではありませんが、屋号を持っていると相手に信頼されやすいです。また、事業用の銀行口座を開設する際、屋号が必要となるケースも多いため、事前に準備しておくと安心です。
屋号があると、ビジネスを有利に進められる可能性が出てくるでしょう。
屋号が不要な場合もある
フリーランスの中には、屋号を登録せずに活動している人もいます。個人名で十分に事業が成立している場合や、小規模なプロジェクトを主に行っている場合には、屋号がなくても問題ないことが多いでしょう。
ただし、店舗や事務所を持つ場合は、屋号がそのまま施設名となるため、設定しておくと便利です。
屋号と商号の違い
法人が設立時に設定する会社名を「商号」と言います。商号には「株式会社」や「銀行」などが含まれますが、屋号にはこれらを含めることはできません。
また商号は法人に限定されるのに対し、屋号は個人事業主が自由に設定できます。
フリーランスが屋号を付けるメリット
ビジネスを円滑に進める上で、フリーランスが屋号を付けるとさまざまなメリットが得られます。以下では、屋号を付けることのメリットをご紹介していきます。
- 経理作業を効率化できる
- 事業の印象が良くなりやすい
- 社会的信用度が向上しやすい
- 法人化や事業拡大の準備に役立つ
経理作業を効率化できる
屋号があると、事業用の銀行口座を開設できます。事業用の銀行口座があると、プライベートな収支と事業に関わるお金の流れを明確に分けられるため、経理作業が効率化されるでしょう。
とくに、確定申告や青色申告を行う際には、事業用の口座があると記帳作業がスムーズになります。事業用の口座があると、取引先からの信頼も高まりやすいでしょう。
事業の印象が良くなりやすい
屋号は、フリーランスの活動内容を端的に表現する看板のような役割を果たします。事業内容をわかりやすく表現した、覚えやすい屋号を付けることで、取引先や顧客に事業の印象を強く与えられるでしょう。
結果として新規顧客を見つけやすくなり、仕事の依頼を受けやすくなる可能性が高まります。
社会的信用度が向上しやすい
フリーランスが屋号を持つことで「しっかりと事業を運営している」という印象を取引先や顧客に与えられ、社会的信用度が向上しやすいです。個人名だけで活動している場合に比べ、営業活動がスムーズに進むでしょう。
法人化や事業拡大の準備に役立つ
将来的に法人化を考えているフリーランスは、屋号を設定しておくと法人名としての活用がしやすくなります。フリーランスとして積み上げた実績を、そのまま法人化した後のブランドとして利用できるため、事業拡大をしやすいでしょう。
とくに開業時に設定しておけば、屋号付きの事業口座を活用できるため、取引の信用度をさらに高められます。
フリーランスが屋号を付ける際の注意点
フリーランスが屋号を付ける際には、注意が必要です。適切でない屋号は、逆に事業活動に悪い影響を与える可能性があります。以下では、屋号を決める際の注意点を解説します。
- 読みにくい名前や長すぎる名称は避ける
- 他人の商標や屋号との重複に注意する
- 法律で制限された名称を避ける
読みにくい名前や長すぎる名称は避ける
屋号を設定する際には、顧客や取引先に伝わりやすい名前にすることが重要です。読みにくい言葉や専門用語を多用した屋号は、相手を混乱させる恐れがあります。
また、長すぎる名前は覚えてもらいにくく、書類の記載に手間がかかるデメリットがあります。シンプルでわかりやすい屋号は、顧客や取引先からの印象を良くするでしょう。
他人の商標・屋号との重複に注意する
他人と同一あるいは似た屋号を付けること自体は禁止されていませんが、すでに商標登録されている場合、その名称を使うと法的なトラブルに発展します。事前にインターネット検索や商標データベースを使い、調査を行っておきましょう。
また、商標登録されていないとしても、同一や類似する屋号の場合は、間違われる可能性があるだけでなく、法律問題に発展する可能性があります。独自性を持った屋号にするようにしましょう。
法律で制限された名称を避ける
個人事業主は「〇〇会社」や「〇〇法人」といった名称を使えません。これらの名称は法人格を持つ事業体にのみ許可されているため、フリーランスや個人事業主は使わないようにしましょう。
また、事業とは関係のない名称を屋号に使い、混乱を招くことは禁じられています。たとえば、銀行ではないのに「〇〇銀行」の屋号にするなどです。
フリーランスの屋号の決め方【業種別の具体例あり】
どのように屋号を選べば良いのか、迷う人も少なくありません。ここでは、フリーランスの屋号の決め方を解説していきます。
業種別の屋号例も載せていますので、ぜひ参考にしてみてください。
- 事業内容がわかりやすい屋号を選ぶ
- シンプルで覚えやすい屋号にする
事業内容がわかりやすい屋号を選ぶ
屋号は事業内容を表すものが理想的です。ただし特定の業務に絞りすぎた名前を付けると、仕事の幅が狭まる場合があります。
たとえば「〇〇デザイン」という屋号にすると、デザイン以外の仕事が来なくなるかもしれません。
自身が提供する価値・サービスの方向性を広く表現できる名前を選ぶことで、将来的な事業展開にも柔軟に対応できるでしょう。なお事業内容を表した屋号にすることには、インターネット検索で見つけてもらいやすくなるメリットもあります。
シンプルで覚えやすい屋号にする
屋号が複雑で発音しにくい名前だと、顧客に覚えてもらえない場合があります。聞き慣れない外国語や難しい漢字を使う場合には、意味の説明が必要になるかもしれません。
簡潔で覚えやすい名前は、名刺交換やインターネットでの検索時にも好印象を与えられます。シンプルで覚えやすい屋号を選びましょう。地域名や活動内容を含めた屋号もおすすめです。
業種別の屋号例
業種によって屋号の傾向があります。ここで、業種別屋号の具体例を挙げていきます。
デザイナーの場合
デザイン関連の業務を行うフリーランスには、視覚的な要素を強調した屋号が適しています。「Web」や「クリエイト」などの単語を取り入れると、活動の内容が一目でわかる屋号になります。
【具体例】
- 〇〇Webデザイン
- アトリエ〇〇
- 〇〇クリエイト
和風の雰囲気を出したい場合は「工房」や「制作所」を使うのも良いでしょう。自身のスタイルや理念に合った表現を選びましょう。
フリーランスライターの場合
ライターの場合は、執筆の内容や専門分野がわかるような屋号が向いています。本名を活用した屋号も人気ですが、ペンネームを活用したブランディングも1つの方法です。
【具体例】
・〇〇ライティング
・スタジオ〇〇
・〇〇編集部
「ライティング」や「編集」のように業務を明示する単語を使うことで、クライアントがサービスを選びやすくなるでしょう。
店舗運営を行う場合
店舗を構える業態では、シンプルで親しみやすい名前が適しています。「屋」「本舗」などを使うと地域に根ざした印象を与えられます。どのような商品やサービスを提供するのかわかる屋号にすることが大切です。
【具体例】
- 〇〇屋
- 〇〇工房
- 〇〇サロン
「〇〇専門店」などと追加すると具体性が増すでしょう。
フリーランスの屋号の届け出方法
屋号自体に法的拘束力はありませんが、商号や商標として登録することで法的な保護を受けられます。法的に問題がなければ、屋号を自由に変更・削除することも可能です。
また、屋号を使用する際は、税務署や法務局への届け出が必要です。ここでは「開業届に屋号を記載する場合」「商号として登記する場合」という2つのケースに分けて、届出方法を解説していきます。
開業届に屋号を記載する場合
フリーランスとして新たに事業を始める場合は、開業届を税務署に提出する必要があります。屋号を使用する場合は、開業届の「屋号」欄に記入しましょう。屋号の読み方がわかるように、フリガナを添えて記入します。
ただし、この手続きは任意であり、屋号を記載しなくても開業届を提出できます。しかし、屋号を決めておくと銀行口座の開設や名刺作成の際にも便利です。
商号として登記する場合
屋号を商号として登記する場合は、法務局で手続きを行います。商号登記をすることで、同一地域内で他者が同じ名称を使用できなくなるため、名称の独占権を得られます。とくに法人化を視野に入れている場合やブランドを重視する場合におすすめです。
なお、商号登記には3万円の費用がかかり、登録の際には申請書類や個人の実印などが必要です。
フリーランスの屋号の変更方法
屋号はフリーランスにとって事業を象徴するものですが、さまざまな変更が必要になるため、できれば変更は避けたいところです。
税務署に対する屋号の変更手続きは不要とされていますが、事前に注意点を確認しておくと安心です。
以下では、屋号の変更方法を詳しく解説していきます。
確定申告書に新しい屋号を記載する
屋号を変更する最も簡単な方法は、確定申告書に新しい屋号を記載することです。
確定申告書の第一表には「屋号・雅号」の欄があり、ここに新しい屋号を記入すると変更が反映されます。開業届を提出している場合でも、この方法で対応可能です。
ただし、税務署に正式な記録を残したい場合は、変更後の屋号を記載した開業届をあらためて提出することをおすすめします。この手続きを行うと、後から証明書が必要な場合にも対応しやすくなります。
なお、商号として登記している場合は、法務局で「商号変更登記」の手続きを行いましょう。この場合は、新たな商号を記載した申請書や3万円の登録費用が必要です。
開業届を再提出する
すでに開業届を出している場合、新たな屋号を記載して税務署に再提出することで、正式な記録が残ります。具体的には開業届の「その他参考事項」欄に、新しい屋号とその変更理由を記載しましょう。
受領印の入った控えを保管しておけば、屋号の変更を証明する書類として活用できます。なお開業届の控えを紛失してしまった場合は、税務署で「保有個人情報開示請求書」を提出することで再発行が可能です。
屋号変更時の注意点
屋号を変更する際は、以下のことに注意すると後々のトラブルを避けられます。
取引先や顧客へ周知する
屋号を変更した場合、取引先や顧客への周知が最優先事項となります。変更を事前に知らせることで、支払いや請求の手続きがスムーズに進み、混乱を避けられます。
とくに、金融機関や重要な取引先には、正式な文書を使って通知するのが望ましいです。事後報告になってしまうと信用に影響を与えかねません。「事業内容の拡大に伴う変更」「他者と名称が重複しているため」などと変更理由もあわせて説明すると、相手方の理解を得やすくなるでしょう。
頻繁な変更は避ける
屋号は事業の看板ともいえる存在です。短期間で何度も変更すると「安定感がない」「信用性に欠ける」といった印象を与え、顧客離れの原因になる恐れがあります。
また、名刺やホームページ、銀行口座名義などをその都度変更する手間や費用がかかります。
商標登録した屋号は変更・削除が複雑
屋号を商標登録している場合は、変更・削除が複雑です。原則として商標登録された屋号は変更できないため、新しい名称を特許庁に申請する必要があります。
後日法律的な問題に発展しないよう、商標登録後の屋号変更については、特許庁や専門家に相談しながら進めることをおすすめします。
屋号変更後の対応も大切
屋号変更後も以下のような対応が求められるので、心に留めておきましょう。
金融機関での名義変更
屋号が変更になった場合は、速やかに金融機関で名義変更手続きを行いましょう。屋号の変更を証明するために、受領印付きの開業届の控えや変更届の提出が求められることがあります。
名刺やホームページの更新
屋号の変更後は名刺・ホームページ・SNSアカウントなどの更新を行い、新しい屋号をすぐに反映させましょう。既存顧客はもちろん、新規顧客にも統一感のある情報を提供できます。
また、取引先との契約書・請求書に記載する屋号も忘れずに新しいものに統一しましょう。
フリーランスは屋号で信頼性を高めよう
フリーランスや個人事業主は、事業を円滑に進めるために屋号が役立ちます。屋号は必須ではありませんが、顧客からの信頼を得て事業の認知度を高める上で大きな効果を発揮します。
さらに、屋号を使うことでプロフェッショナルな印象を与えられ、事業用の銀行口座を開設でき、法人化を目指す際にもメリットがあるでしょう。
ただし、屋号を決める際は「読みやすく覚えやすい名称を選ぶこと」「既存の商標や商号と重複しないこと」「法律で制限された名称を避けること」が重要です。また屋号を変更する際には取引先や顧客への周知を忘れず、慎重に進めましょう。
ビジネスに向いているのが、事業内容がわかりやすくシンプルな屋号です。仕事の幅が狭くなりすぎない程度に、業種に合わせた屋号を選ぶのがおすすめです。
事業の発展を見据えた屋号を選び、フリーランスとしての活動をさらに充実させましょう。
執筆者名Ruben
編集企画CWパートナーシップ・フリサプ編集チーム